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猪突猛進「香車の伝右衛門」こと戦国武将・初鹿野信昌が陣羽織に仕込んだネタにアッパレ!

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香車は後ろに進めないが…伝右衛門の仕込んだネタに大爆笑

さて、初鹿野信昌は猪突猛進な性格だったのか、真っすぐにしか進まない将棋の駒である「香車」と記した陣羽織を着用。なので皆からは香車伝右衛門と呼ばれていました。

そんな香車伝右衛門が永禄12年(1569年)、武田家が相模国の北条氏照(ほうじょう うじてる)らと三増峠で戦った時のこと。

「おりゃーっ!」

いつもの通り元気いっぱい全力疾走で敵中深く乗り込んで行った伝右衛門。今回も武運に恵まれ無事に帰陣できたのでした。

それは何より……と思うところですが、陣中に口の悪い手合いがいたようで、こんなヤジが飛んできます。

「よう伝の字。香車は真っすぐ行ったら行ったきり、後ろには進めないはずだがなぜ戻って来た?」

戦場で行ったきりと言うのは、死ぬか寝返るか逃げ出すかくらいしかありません。言った当人もまさか本気でそんなことを願ってはいないでしょうが、ちょっと空気が重くなります。

(うわぁ、リアクションしづらいなぁ……)

周囲の仲間たちが気まずくなってしまったところ、伝右衛門は「待ってました」とばかりに陣羽織を脱いでひっくり返しました。

何と、陣羽織の裏地には「成金(成香)」と記されています。

成金とは将棋のルールで、敵陣へ突入した香車の駒が金将に成る(出世する)こと及びその駒(他にも歩兵や桂馬、銀将も金将に出世可能)。

こうすれば、ただ真っすぐ前進だけでなく、ナナメや横そして後ろへも移動できるのです。

「それがしは真っ先に敵陣へ突入したから金に成り、こうして無事戻って参ったのじゃ」

かねて仕込んでおいたネタが発表できてよかったよかった……伝右衛門の機転によって陣中は笑いに包まれたのでした。

終わりに

以上、香車伝右衛門の武勇伝を紹介してきました。

どこまでも真っすぐかと思いきや、ユーモアも解するところがいい感じ。特に一生披露しないかも知れない陣羽織の裏地に「成金」を仕込む心意気にしびれてしまいます。

香車は真っすぐな性格を表すのに使いやすいですが、外の駒に喩えた例は他にもあるのでしょうか。

「あいつは角行(かくぎょう。ナナメへ進める)ってところか。駒の隙間を巧みに縫う処世術と、フットワークが抜群だな」

「彼を喩えるなら、さしづめ桂馬でしょうか。死角から一足飛びで急所を衝いてくる交渉センスは逸品です」

……などなど、皆さんの回りを探してみると、そんな人がいるかも知れませんね。

※参考文献:

  • 中塚栄次郎『寛政重脩諸家譜 第六輯』國民圖書、1923年3月
  • 柴辻俊六『新編 武田信玄のすべて』新人物往来社、2008年6月
  • 丸島和洋『戦国大名武田氏の家臣団 信玄・勝頼を支えた家臣たち』教育評論社、2016年6月
 

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