[お江戸小説] ココロサク【7話】溢れそうな想い!?
「イテテテ!何すんだい!」
あっという間に腕を捻り上げられたもんだから、顔が苦痛で歪んでいる男たち。一方で、いつもと別人のように鋭い目つきの新さんは、なんだか凄みを感じるほどだ。
「おまえさんたちこそ、女の子相手に何してるんだい。ここをどこかと勘違いしてねぇか。もう二度とここに足を踏み入れるな、わかったらとっとと行け」
新さんの雰囲気といい身のこなしといい、どうしたって自分たちがかなう相手じゃないと、悟ったのだろう。チッと舌うちしたと思いきや、一目散に逃げ出してしまった。
「おりん、大丈夫かい。偶然通りかかって。何やら店の中の様子がおかしいとのぞいてみたら、こんなことになっていたからビックリしたよ」
そういったとたんにグッと抱き寄せられ、新さんの腕の中にすっぽりと収まってしまった。「無事でよかった」
新さんの消え入りそうな声に、胸が締め付けられるようだ。
「最近、放火や盗みをする、ならず者たちがこのあたりの女の子にちょっかいを出しているという噂があってね。なんか胸騒ぎがしていたんだ」
「おや、新さんじゃないか。なんだか騒がしいだけど、何かあったのかい」
調理場からひょっこりと戻ってきた旦那さんは、なにが起こったか全くわかっていないようだ。
「いや、なんでもないです。ちょっと通りかかったもので」
きっと、旦那さんに余計な心配をさせないようにという計らいなのだろう。
「お客さんがそろそろ入ってくるころだよ。おりん、支度しておいで」
旦那さんは、新作のお菓子ができたとかで大張り切りだ。夕方には新さんと会うことだし、気を取り直して私も頑張らねば。
「夕方、橋の向こうでね」
新さんの声の残響が完全になくなる前に、お客さんが次々と入ってきて、あっという間に日常に押し戻された。
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