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【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第30話:4ページ目
みつは首を傾げた。
「その父っつぁんって」、
「豊国じゃねえ、わっちの本物のお父っつぁんよ」
「わっちゃア実は、十五で勘当されてんのよ。実家の紺屋を継ぐのが嫌でよ。絵師になりてえつって豊国の父っつぁんのところに入門しちまったから」
「そうだったの」
「でもこの大勝負の噂を聞きつけて、本当の父っつぁんがこの掛け守りを作って両国橋まで届けに来てくれた。わっちの夢が本気なのをやっと認めてくれた」
「良かったねえ」
みつは、泣きそうな声で国芳の頬を撫ぜた。
「なあ、おみつ」、
国芳が優しい声音で語りかけた。
「家族って、何か知ってっか?」
「え?」
一瞬、岡本屋のお内儀や美のるや直吉、禿(かむろ)たちの姿が浮かんだ。みつにとって一番家族に近いものは彼らである。
「ちいとなら」
「家族はな、家族という本当の意味はな、『何をしても許せる』という事だぜ。父っつぁんがこないだ、そう教えてくれた」
「許せる・・・・・・」
「そう。例えばとんだ大罪人がいたとして、その母親だけはその子を許せる。たとえ倅が石川五右衛門だとしてもだ。そういうもんらしい。わっちゃアもちろん、おみつの事は何でも許せるてえ自信がある」
「ほんに?」
「ほんにさ」
「なら、安心した」
みつはふわりと笑った。
「わっちにゃア昔から提げているのがあるから、これはめえが掛けとけ」
しゃらりと、みつの細い首に銀の鎖がきらめいた。
「いいの?ありがとう」
「絶対無くすんじゃねえよ」
「約束する」
二人は少年と少女のように恥じらいながら小指を絡めた。
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