『べらぼう』ていの家出に瀬川の名シーンが重なる…蔦重を巡る“三人の女”に隠された真意【前編】:3ページ目
「俺が俺のためだけに目利きした、俺のたった一人の女房でさ」
さて。蔦重のように、店のスタッフの本のセールストークを上手にするために、絵や本のつながりを示した一覧表のような『品の系図』(実際、ドラマの助監督だちが約3か月かけて作り上げた”渾身の小道具”だそう)を作ることになった耕書堂。
ていは、歌麿のアドバイスを参考にして、見やすい「品の系図」を仕上げます。
【べらぼう】で蔦重の妻・ていが作った「品の系図」デジタル版が公開!圧巻の情報量と話題
「せめて、自分が役立てるのはこの仕事!」とばかりに、大変な作業を黙々と生真面目に表を仕上げてから家出するのも、ていらしかったですね。
家出したていをつかまえた蔦重は、自分や店にとって彼女が「縁の下の力持ちのような、大切な存在」であることを感謝します。
さらに、「俺と同じ考えで同じ辛さを味わってきた人がいた。」「この人ならこの先一緒に歩いてくれんじゃねえか」と続け、「おていさんは、俺が俺のためだけに目利きした、俺のたった一人の女房でさ」という熱い言葉を次々にかけました。
蔦重に恋心を感じたせいで、“自分に自信を無くしてした” てい(蔦重はそんな複雑な恋心には気が付いていなさそう)の頑な心は溶けていきます。
というか、ていは、これだけ真っ直ぐに飾らない嘘偽りのない熱い言葉で、男性に褒められたのは、初めてだったのでしょう。
長羽織を着て、いかにも日本橋のお店の主人という風格が付いてきた蔦重の言葉。
瀬川に、一緒になりたいと打ち明けた時の「俺がお前を幸せにしてぇの!」という、一途で向こう見ずさや若さを感じたプロポーズと違い、地に足のついた落ち着きと成長を感じましたね。(これはこれで、この落ち着きっぷりが寂しいような)
ようやく「ビジネス夫婦」から、真の夫婦になった展開。
しっかりとお互いを理解している夫婦なら、この先蔦屋は大丈夫と(史実では、この先暗雲が立ち込めるのですが)感じる場面でした。
そして、『三人の女』の、最後の一人だった歌麿。
愛のない毒母親に蝕まれ、過去を引きずり投げやりな日々を孤独に生きてきた中、蔦重に再会し、「俺のために生きてくれ」といわれ、やっと“蔦重の弟”として家族という居場所を見つけたのに、ていの出現により不安な立場になってしまいました。
【後編】では、「生まれ変わるなら女がいいからさ」と呟いた、複雑な歌麿の心情を振り返ってみたいと思います。
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『べらぼう』歌麿が画名を「千代女」にした本当の理由…蔦重を巡る“三人の女”に隠された真意【後編】
トップ画像:大河ドラマ「べらぼう」公式サイトより


