
大河「べらぼう」蔦屋重三郎の夢を支えた『男気』〜浄瑠璃の馬面太夫と富豪の鳥山検校〜【後編】:3ページ目
初めての浄瑠璃に涙する遊女たちと男気を見せる太夫
蔦重は、遊女かをり(稲垣来泉)の「芝居なんか観たことない」という言葉にヒントを得て、嘘を付き富本豊志太夫と市川門之助(濱尾ノリタカ)をある座敷に招き、非礼を詫びます。
騙して呼び出された彼らは帰ろうとしますが、襖を開けると隣の部屋にはずらりと遊女や禿たちが並んでいました。「ほんの少しでいいんで、女郎たちに富本を聴かせてもらえませんか」とお願いする蔦重。
居並ぶ彼女たちの願いを断って帰るなど野暮なことはしない太夫と門之助は、彼女ために即興で座芸を見せます。目の前で初めて鑑賞する浄瑠璃に、涙を流す遊女たち。
豊志太夫の語りと門之助の素踊りを心震わせながら鑑賞する遊女たちとともに、吉原での「籠の鳥」状態の日々のシーンがかぶります。きれいな着物を着ていても、好きでもない男に体を売る辛い日々。そんな厳しい現実をわずかな時間でも忘れられたでしょうか。
「こんな座興で……」と、遊女たちの涙に驚く太夫と門之助に「吉原の女郎は幼い頃より廓で育ち、江戸にいながら一度も芝居を観ず……この世に別れを告げる者もおります」「太夫の声で救われる女郎がたくさんいる。どうか祭りでその声を響かせて欲しい」とお願いします。
「やろうじゃないか!こんな涙を見て断る男がどこにいる」と、「俄祭り」への出演を承知する太夫たち。「いよっ!午之助」とでも声をかけたくなるほど、粋な男気を見せてくれました。
そんな時、鳥山検校からの「襲名を認める」(正式に二代目富本豊志太夫の襲名を認める)という文が座敷に届きます。そこで、蔦重は「直伝」(※)の出版の許可も頼み込むのでした。
※直伝:浄瑠璃の全段を収めた正本の中でも太夫がお墨付きを与えた本