
「おさらばえ」二人をつなぐ夢の先には…【大河べらぼう】3月9日放送の解説&振り返り
瀬川(小芝風花)に対する20年越しの想い実らず、落ち込む蔦屋重三郎(横浜流星)。
しかし落ち込んでばかりもいられません。江戸市中の本屋連中を敵に回し、苦境に陥っている吉原遊郭を何とか盛り返さねばならないのです。
次なる美人画集を企画する蔦重は、吉原を去っていく瀬川への餞(はなむけ)として『青楼美人合姿鏡(せいろうびじんあわせすがたかがみ)』を世に送り出しました。
そこに描かれるのは、のんびりと日常を楽しむ遊女たちの姿。最初で最後となる自分らしい絵姿に、瀬川は思わず涙ぐみます。
最後となる花魁道中。大門で腕組みしながら待ち受ける蔦重。瀬川の無表情が笑顔に変わり、二人がすれ違っていく瞬間は、切なくも清々しいものでした。
どこまでも近づきながら離れていく夢の先には、瀬川を身請けした鳥山検校(市原隼人)。二人の絆を肌で感じ取り、不穏な視線を向けています。
いっぽう千代田のお城(江戸城≒幕府)では田安賢丸(寺田心)が将軍家に田安の「種」をまき、田沼一派を駆逐する一手を打ちました。久しぶりの政治パートでしたね。
……という訳でNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第10回放送「『青楼美人』の見る夢は」振り返ってまいりましょう!
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遊女たちの日常を描いた『青楼美人姿合鏡』
「あんたがモノをくれる時は、いつも本だね」
言われてみれば、本作における蔦重は、瀬川に対していつも本を贈っていました。
少年時代に贈った『塩売文太物語』、幸せになれよと贈った『女重宝記』、そして今回の『青楼美人姿合鏡』。恐らく最後となろう贈り物は、蔦重がプロデュースした本でした。
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その内容は吉原遊女たちの日常。吉原者にしか描けない内幕を垣間見せることで読書の興味を惹きつける趣向となっています。
一方で遊女たちにとっては、のんびりと日常を楽しむ自分たちの姿を見ることで、辛い日々の慰めになったのかも知れませんね。
性格によっては「こんなの絵空事。実際の吉原遊廓は辛いことばかりだ」と反感を覚える人もいるでしょうが……。
吉原遊廓をみんなが憧れる場所にしたい。そんな二人をつなぐ唯一の絆を形にした作品とする脚本に、愛情と敬意が感じられました。
なお『青楼美人姿合鏡』には遊女たちの詠んだ歌も収録されており、瀬川はこんな俳句を詠んでいます。
うくいす(ウグイス)や 寝ぬ眼を覚す 朝朗(あさぼらけ) 瀬川
一晩寝ずにいて眠いけど、ウグイスの鳴き声で目が覚めた朝。何気ない遊女暮らしの一幕を描いているのか、それとも何かの隠喩なのでしょうか。