
大河「べらぼう」蔦屋重三郎と瀬川を生涯結ぶ2冊の本 『心中天網島』『青楼美人』の紹介と考察【後編】
幼い頃から想いを胸に秘めていた花魁・瀬川(小芝風花)、20年経ちその気持ちに気が付いた蔦屋重三郎(横浜流星)。やっと始まった本気の恋はすぐに終わってしまいます。
第10話「『青楼美人』の見る夢は」では、鳥山検校(市原隼人)への身請けを決めた瀬川が、白無垢の花嫁衣装を纏った最後の花魁道中を披露し「おさらばえ」の言葉を残し吉原の大門を出て行きました。
幼い頃から、二人の絆を固く結んでいた「本」という存在は、蔦重と瀬川が別々の人生を歩むようになっても「二人が抱いた夢」を紡ぎ続ける役目を果たします。
【前編】では、蔦重が瀬川に託した近松門左衛門の名作『心中天網島』に込めた本気の想いをご紹介しました。
大河「べらぼう」蔦屋重三郎と瀬川を生涯結ぶ2冊の本 『心中天網島』『青楼美人』の紹介と考察【前編】
「あんたが何かくれる時はいつも本だなって」……身請けされ吉原を出ていく瀬川花魁(小芝風花)が、自分に餞別として本をくれた蔦屋重三郎(横浜流星)に笑いながらかけた言葉です。その言葉の通り…
【後編】では「花魁と自分をつなぐものはこれしかねえ」と瀬川に渡した『青楼美人合姿鏡』と、そこに込めた蔦重の深い想いと夢を考察してみました。
一瞬の夢をみさせてくれた忘れ得ぬ「本」
『心中天網島』の本に、偽造したの通行証を挟んで渡すも、計画は未遂のまま頓挫。
けれども、足抜けは実行できずとも、「一緒に逃げよう。心中も辞さない覚悟だ」という本気のメッセージを託し偽造通行証を挟んだ『心中天網島』という本は、瀬川にとっては一生忘れ得ぬ夢を見せてくれた本として心に残り続けるでしょう。
身請けされ吉原の大門を出ていく瀬川最後の花魁道中で、まばゆく輝く白無垢姿になった瀬川からは、四代目のように自害もしない、心中もしない、「私はあんたがくれた想いと覚悟だけで生きていく」そんな胸のうちが聞こえてくるようでした。
白無垢の胸元には、「女 しお」と蔦重が書いた通行証のを忍ばせていた(瀬川は、「しお」という部分だけを破り取り、残りを蔦重に返していた)のではないでしょうか。