
大河「べらぼう」蔦屋重三郎と瀬川を生涯結ぶ2冊の本 『心中天網島』『青楼美人』の紹介と考察【後編】:2ページ目
蔦重と瀬川の想いと夢
瀬川に別れを告げられた後、蔦重は瀬川のためにも「吉原をもっといい場所にしたい、遊女たちの待遇が改善され、身請け話やいい出会いに恵まれる場所にしたい」と悩みますが、平賀源内(安田顕)のアドバイスにヒントを得て「錦絵本を上様に献上」し吉原の格を上げる作戦に打ってでます。
そして当時、江戸を代表する二代絵師を起用。蔦重が最初に出版した『一目千本』の絵を描いたのが北尾重政(橋本淳)と、役者絵で有名な勝川春章(前野朋哉)でした。二人はページごとに別々に分担して絵を書きました。
吉原遊郭の遊女たちの姿を「鏡に映したように」見せることにこだわり、季節ごとに書画を楽しんだり、和歌を詠んだり、双六(すごろく)や投扇興(とうせんきょう)、などの遊戯に興じる姿など「遊女が遊女ではない普段の生活の一面」を、浮世絵の彩色摺絵本描いた美しい作品です。現代に例えれば、アイドルやスターなどの「オフショット集」のような感覚ともいえるでしょう。
蔦重は、瀬川が吉原を出ていく日、贅沢の限りを尽くしたこの本を瀬川に贈ります。ページを開くと、瀬川が本を読む姿も描かれていました。美しく装った花魁姿でもなく客の相手をし続けて疲弊した姿でもなく、蔦重にとって普段着の瀬川の姿といえば、本を読んでいる姿だったのです。吉原を出ていく身なのにと、驚く瀬川でしたが「楽しかったことばかりを思い出す」と喜ぶのでした。
蔦重は、「俺は吉原を楽しいことばかりのとこにしようと思う。売られてきた女郎がいい思い出いを持って大門を出て行けるとこにしたい。馬鹿みたいな昼寝の夢みたいな話だけれど、それが自分たち二人が見てた夢じゃねえの?」と語ります。