
大河「べらぼう」に登場!遊女を”花”に見立てた蔦屋重三郎 初の出版本『一目千本』を解説【後編】:3ページ目
精密な花の画だけで姿をイメージさせる
そもそも『一目千本』という言葉は、「一目で千本の桜が見渡せる」という意味。
特に、桜の名所である奈良県吉野山で、「一望のもとに千本の桜が見渡せる絶景の場所」のことを指します。
蔦重は、この本一冊を見れば吉原の遊女たちが分かるというような意味を込めたのでしょうか。
いつもツ〜ンとしている遊女は「わさびの花」、手紙の文章ばかり書いている遊女は「カキツバタ」……と花に見立て、繊細なタッチで画を描き、そこに遊女の源氏名と妓楼の名前を書き添えた『一目千本』。
見ているだけでも「いったいどんな遊女なのだろう」と頭の中でイメージが膨らむような本だったそうです。
「◯◯屋には◯◯という遊女がいる」という文章だけではそのまま読み流されてしまうところを、あえてひとりひとり「花」にたとえることで好奇心を刺激するようにしました。
さらに『一目千本』は、本屋で一般的に売らず、一流の妓楼や引手茶屋のみでしか入手できないようにしました。(ドラマでは「床屋」など店舗にサンプル本を置き、興味を持った客が気軽に読めるようにしていました)
この本を持っていることが吉原の常連の証となることも、客の所有欲をそそったそうです。
『一目千本』は、上下2巻で70ページほどの手軽に持ち運びできるサイズで、気軽に手に取ったり持ち運びがしやすいサイズだったそうです。
実際の彫師・摺師さんが登場した製本の場面
ちなみに、ドラマの中で北尾重政の絵を、彫師が板木を裏返しに貼った下絵ごと彫り、摺師が板木の上に墨を塗り、紙を置き摺るというシーンがありました。
精密で精巧な仕事ぶりがうかがえましたが、実際に本物の彫師さんや摺師さんが演じたそうです。
細かく絵柄を彫って紙に刷り、その紙を綴じて一冊の本に仕上げていく(ドラマの中では河岸見世の遊女たちが、蔦重が差し入れたお金でおにぎりを食べられるようになったお礼にと本を綴じる作業を手伝うというストーリーになっています)。
江戸時代の一から十まで全て「人の手による」元祖アナログな製本方法と、現代のクラウドファンディング的な出版方法・フリーパーパー的な広報の方法の蔦重の発想との対比が、興味深い回でした。