「鎌倉殿の13人」破れて砕けて裂けて散るかも…第39回放送「穏やかな一日」振り返り:6ページ目
穏やかとは全く無縁な源実朝
冒頭、疱瘡(天然痘)から奇跡の回復を見せて政務へと復帰した実朝。一時は命の危険もあったとのことで、万一のことを考えた跡継ぎ問題が言及されます。
既に正室・千世(演:加藤小夏。坊門姫)を迎えているのに、数年経っても寝所は別々。男女には相性があるので、ならば側室をと勧める乳母の実衣(演:宮澤エマ。阿波局)。
和田義盛「声の大きな女子(おなご)は、情が深いんだ!」
実衣「聞いてません!」
どうしてもその気にはなれないけど、仕方なく「声の大きな女子」を所望した実朝。で、召し出されたのが先ほどの“よもぎ”でした。しかし、意中の相手は。
「返歌を詠んで欲しい。楽しみにしている」
そう言って和歌を渡した相手は、北条泰時。和歌の心得がないことに加え、詠まれたテーマが恋とあって、泰時は困惑してしまいます。
春霞 たつたの山の 桜花
おぼつかなきを 知る人のなさ【意訳】竜田山(生駒山地の南方に連なる山々)の桜が春霞に隠れるように、病にやつれた(疱瘡であばたが出来てしまった)私の顔を、どうか見ないで欲しい。
随分と遠回しながら、泰時を思い恥じらう実朝の様子が目に浮かぶようです。確かにこれを贈られたら、泰時としては返歌に困るでしょうね。
さんざん悩み抜いた挙げ句「渡す歌をお間違えでは」ということにして、歌を返納した泰時。「間違えてしまったようだ」悲しくやさしい笑いを浮かべる実朝の表情は、実に儚げでした。
先ほどは義時に「間違えた」と言わされ、今度は泰時に「間違えてしまった」と言わざるを得ない状況に追い込まれた実朝。義時と泰時が実に似た者であることを、別の角度からも感じさせます。
では、今度はちゃんとした歌を……と贈り直したのが冒頭の一首。
大海の 磯もとどろに よする浪
破(わ)れて砕けて 裂けて散るかも【意訳】大海原より磯に打ち寄せる波は、破れ砕け裂け散るのだ。
一見すると雄大な自然を謳いながら、実は失恋の悲しみをストレートにぶつけたのでした。よく恋愛で「当たって砕けろ!」などと言いますが、まさに砕け散った実朝の心をこれ以上なく詠んだ一首と言えるでしょう。
※ただし、これは大河ドラマの解釈(創作)であり、実朝が泰時に密かな思いを寄せていたことを裏づける史料は令和4年(2022年)時点で発見されていません。念のため。
いや、これはこれで……春霞よりも返歌に困ってしまいますね。もし皆さんが同じ状況なら、実朝に何て詠み返しますか?泰時が慣れないヤケ酒を呑んでいたのは、やがて和田合戦で二日酔いの醜態を演じる伏線でしょうか。
ちなみに実朝の痘痕(あばた)面について、和田義盛が「味があって、こっちの方がいい!」と豪快に笑い飛ばしていましたが、筆者も同感です。
美しくつやつや輝くお肌も素敵ですが、男性はちょっとくらい傷やら皺やらあった方が、くぐり抜けた人生の深みを感じさせます。どれほど肌は傷もうと、だからこそ却って眼の輝きが引き立とうというもの。生き方は眼に出ます。
逆に言うと、どんなに表面ばかり取り繕っても、眼光の濁りは隠せないということでもあります。念のため。