江戸時代、天然痘によりわずか6歳で世を去った露姫が、父への遺書にしたためた「一生のお願い」:2ページ目
父への手紙
於いとたからこしゆあるな つゆがおねかい申ます めてたくかしこ
於とうさま
まつたいらつゆ
上あけるつゆ
【意訳】
老年(おいとし)だから御酒(ごしゅ)は呑まないで下さい 露がお願い申します めでたくかしこ
お父様へ
松平露
最後の「上あける」とは、他3通の遺書をこの遺書で包んでおり、「上を開けて中を読んで下さい」という取説になっています。
冠山は酒豪で知られていましたが、同時に酒癖も悪かったのか、母をはじめ親しい人々がよほどの迷惑を被っていたのかも知れません。
「パパ、もうお酒はやめて!これ以上、ママやみんなを悲しませないで!」
露姫の悲痛な「一生のお願い」にショックを受けたようで、反省した冠山はキッパリと断酒。それっきり終生酒は呑まず、可愛い末娘の思いに応えたとの事でした。
母と侍女たちへの手紙
まてしはし なきよのなかの いとまこい むとせのゆめの なこりおしさに
おたへさま
つゆ
【意訳】
ちょっと待って下さい。お母様(側室・お妙の方)にお別れを告げたいの。夢のように短い六年間の名残を惜しませて下さいな……
お妙様へ
つゆ
これは冥途への「お迎え」に来た死神に対するメッセージで、「もうちょっとだけ待って」と名残を惜しむ情景が胸に迫ります。
本当は父親へ宛てたように、率直なメッセージを書きたかったのかも知れませんが、ちゃんと和歌に整える辺り、男親と女親とで心理的な距離差を何となく感じます。
ゑんありて たつときわれに つかわれし いくとしへても わすれたもふな
たつ とき さま
六つ つゆ
【意訳】
縁あって私のお世話をしてくれたこと、私は忘れない。だから「たつ」も「とき」も、ずっと忘れないでいてね……
たつ様 とき様
6歳 つゆ
この「たつ」と「とき」は、きっと露姫付きの侍女として仕えてきたのでしょう。人間、死ぬ時に何が一番辛いかと言って、忘れ去られてしまうことを、幼な心に知っていたようです。
「えぇ、えぇ……姫様のことを、忘れたりするものですか……」
主従とは言え、家族のように過ごしてきた日々は、彼女たちにとってもかけがえのない思い出となった事でしょう。