無料公開中。命がけで広島の原爆の現実を書いた詩人・峠三吉の「原爆詩集」:2ページ目
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石地蔵のように散乱した練兵場の屍体
つながれた筏いかだへ這はいより折り重った河岸の群も
灼やけつく日ざしの下でしだいに屍体とかわり
夕空をつく火光かこうの中に
下敷きのまま生きていた母や弟の町のあたりも
焼けうつり
兵器廠へいきしょうの床の糞尿ふんにょうのうえに
のがれ横たわった女学生らの
太鼓腹の、片眼つぶれの、半身あかむけの、丸坊主の
誰がたれとも分らぬ一群の上に朝日がさせば
すでに動くものもなく
異臭いしゅうのよどんだなかで
金かなダライにとぶ蠅の羽音だけ
三十万の全市をしめた
あの静寂が忘れえようか
そのしずけさの中で
帰らなかった妻や子のしろい眼窩がんかが
俺たちの心魂をたち割って
込めたねがいを
忘れえようか!
峠さんは、この詩集を書いた2年後の1953年、36歳の若さで病没されました。原爆投下からわずか8年後の事でした。
これらの詩が収められている「原爆詩集」は青空文庫にてどなたも閲覧が可能になっていますので、とにかく1人でも多くの人に読んで頂き、1人でも多くの人にあの日実際にきのこ雲の下で本物の地獄を見た峠さんの魂の叫びが届く事を願うばかりです。
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