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今昔物語集の素敵エピソード!尊すぎる…勘違いから夫婦が復縁、男が思い出した大切なこと

今昔物語集の素敵エピソード!尊すぎる…勘違いから夫婦が復縁、男が思い出した大切なこと:4ページ目

風雅を解する妻と、夫の改心

「……これこれしかじか」

さて、童から事情を聴いた男は「とりあえず、さっさと取り返して来ーいっ!(原文:速ニ其レ取リ返シテ、只今来)」と、童を妻の元へ遣わしました。

「……かくかく云々」

童から事情を聴いた妻は、内心「やっぱりね」と落胆しましたが、大切にとってあった贈り物を返すことにしました。

盥から引き揚げた蛤&海松を上等な陸奥紙(みちのくがみ)に包んで、童に持たせました。

たとえ勘違いでも、素敵な物が見られて楽しかったわ。ありがとう。主人によろしくね

「……へぃ、今回はすいやせんでした」

包みを抱えながら、童は男の元へ戻ったのでした。

「……遅かったじゃないか」

さて、童から包みを受け取った男がさっそく中身を検(あらた)めると、そこには男が拾った時そのままの蛤&海松がありました。

「……ん?」

男は脇へ置いた包みの陸奥紙に、何か書きつけてあるのを見つけました。それは、一首の短歌でした。

【原文】「アマノツト ヲモハヌカタニ アリケレバ ミルカイモナク カヘシツルカナ」

(海の苞 想わぬ方に 在りければ 見る甲斐(海松・貝=蛤)もなく 返しつる哉)

【意訳】この素敵な海からの贈り物は、残念ながらわたくし宛てではないようですから、愛でる間もなくお返しいたします。

……その筆跡(て)は、永年連れ添ってきた妻のもの……何だか、男は忍びなくなってしまいました。

彼女はいつも、私の好きな花鳥風月を共に愛でてくれた。どんなにご無沙汰したって、嫌味も皮肉も言わず、いつでも心から歓迎してくれた。

今回の贈り物だって、恐らく間違いだと察していながら、とても喜んでくれたことは、未だに瑞々しさを保っているこの蛤&海松を見れば解る。

……そうだ。私が真に伴侶とすべきは、長い人生において共に風雅を楽しめる女性であって、間違っても「焼き蛤が喰いたい」などと吐かす女ではない。

……私は今めかしき華やかさに目がくらみ、大切なことを忘れていた……今すぐ妻に謝らなければならない。

男はその日の内に牛車を出させて妻の元へ「帰り」、その後浮気することなく、一生仲睦まじく暮らしたそうな……めでたし、めでたし。

※出典:『今昔物語集』「品不賤人、去妻後返棲語(しないやしからぬひと、めをさりてのちにかえりすむこと)第十一」より。

5ページ目 経験や感動の中で歳月を積み重ねるという価値

 

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