今昔物語集の素敵エピソード!尊すぎる…勘違いから夫婦が復縁、男が思い出した大切なこと:2ページ目
贈り物は、一体どこへ?
さぁ、童は困ってしまいました。
ご主人があんまりナチュラルに申しつけるもんだから、ついそのまま来ちゃったじゃないか……と言い訳を考えても始まらないので、男が日ごろ「気にかけている相手」を推理してみました。
まぁ……男性はありえないだろう。いくら珍しいからって、いきなりこんな中途半端な海産物を贈られてもリアクションに困りそうだ。
となると当然「あの人」とは女性……有力な候補は二人。昔から連れ添った妻と、近ごろ夢中になっている今めかしき新妻か……うーむ、どっちだろう。
考えた結果、童は妻の方へ届けることにしました。
「今めかしき新妻であれば、どうせ通うのだから、自分で届けた方が喜ばれるし、土産話も盛り上がるだろう。となれば、わざわざ使いを立てた以上は、自分の足が向かない(であろう)妻の方へ届けさせたかったに違いない」
という訳で、蛤&海松の贈り物は、妻の方へ届けられたのでした。
「……珍しいこともあるものねぇ……」
男からの贈り物を受け取った妻は、盥に水を張った中へ蛤&海松をそっと入れて、飽かずに愛でておりました。
(まぁ、大方あの童が届け先を間違えたのでしょうけど)
妻は、本当は察していました。それでも、せっかくの贈り物がとても嬉しかったので、大切にとっておくことにしたのでした。
「こうしていると、京にいながら海辺のように素敵な潮の薫り。あぁ、早く彼が帰って来ないかしら……」
そんな事とも露知らず、男は十日ばかりのバカン……もとい出張を終えて京の都へ戻ると、真っ先に今めかしき新妻の元を訪ねたのでした。