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【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第18話

【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第18話

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◾︎文化七年、春

大人気浮世絵師の歌川豊国の工房には広くない中庭があった。

豊国はそこが気に入っていて、筆休めにしばしば庭に降りては斑竹の縁に腰掛け、ぼんやりと草木の目に沁みるような青を眺めた。

ある時、弟子の国政と二人並んで腰掛けていると、

「先生」

国政が、ふと顔を上げた。

「先生に紹介してえガキがいるんです」

柔和な垂れ目で、ふうわりと微笑した。

 

「ガキ?」

「ええ。俺が昔働いてた紺屋の倅。物凄い絵を描くんです・・・・・・!」

国政は例えるならばやわらかい春風のような優しい男だが、その時はいつになく熱っぽく興奮した口ぶりで語った。

その語気に突き動かされ豊国は国政に従って日本橋白銀町のとある紺屋を訪れた。

「親方、お久しぶりでごぜえやす」・・・・・・

紺地ののれんを分けた国政に続いて中に入ると、正面の壁に鍾馗(しょうき)の絵が無造作に貼られていた。

一目見て、惚れた。

技も、美しさもない。

それは自由で型破りで、飛び出そうなほど力強く、子どもの夢と憧れだけで描かれた、とてつもなく魅力的な鍾馗であった。

・・・・・・

 

 

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