江戸時代の若者のデートは「見世物小屋」!?――深川の繁華街に見る、庶民的娯楽と男女の距離感:2ページ目
遊里と「身の丈に合った」娯楽
一方で、江戸の大遊郭である吉原などは、利用に多額の費用を要し、一般町人や下級武士が日常的に通える場所ではありませんでした。
そのため、芝居、寄席、見世物、門前町の茶屋といった、より安価で身近な娯楽が庶民の間で発達していきます。
深川のような繁華街では、華やかな遊里文化を身近に感じながらも、実際には懐具合に合わせて見世物や屋台を楽しむ若者が少なくなかったと考えられます。
高価な遊びを遠巻きに眺めつつ、自分たちなりの楽しみ方を見つける――そうした距離感もまた、江戸の都市文化の一側面でした。
芝居や見世物、川辺の行楽などを通じて、江戸の都市空間が若者を含む庶民の社交の場であったことは、多くの風俗画や随筆が伝えています。人が集まる場所には、自然と会話が生まれ、関係が生まれ、ときに感情の動きも生じます。そうした意味で、見世物小屋もまた、人と人とを結びつける場の一つであったと言えるでしょう。
もっとも、見世物小屋を現代の「定番デートスポット」と同一視することはできません。
それは恋愛のために特化された場所ではなく、あくまで日常の延長線上にある娯楽の場でした。
けれども、深川の通りを並んで歩き、たまたま立ち寄った見世物小屋で同じものを見て、同じ場面に驚いたり、笑ったりする――。
その帰り道に、特別な言葉を交わしたわけでもなく、何か劇的な出来事があったわけでもない。それでも、「今日は悪くなかったな」と感じる瞬間が、確かにあったはずです。
見世物小屋は青春の場だったのか
見世物小屋は、恋を始めるための舞台ではなかったかもしれません。しかし、恋が芽吹く前の、名前のつかない時間を過ごす場所としては、十分に役割を果たしていたのでしょう。
江戸の町にも、そうしたささやかな青春が、音もなく息づいていました。それを想像するだけで、深川の喧騒が、少しだけ身近に聞こえてくるような気がします。
参考文献
- 竹内誠 監修 『図説江戸5 江戸庶民の娯楽』(2003 学習研究社)
トップ画像:「雪中相合傘」鈴木春信 画 (Wikimedia Commons より)
