『べらぼう』招かれざる客は”蔦重の子供”…唯一無二の存在ではなくなった歌麿の決別【後編】:4ページ目
無理に作った笑顔で「蔦屋とは最後になる仕事」を引き受ける
頭を下げる蔦重に長い沈黙の後、「仕方中橋(しかたなかばし)」と地口で答える歌麿。「義兄さんの言うことは聞かねえと。俺は義弟だし」と、笑顔で答えます。非常に痛々しかったですね。
「恩に着るぜ義兄弟」と涙ながらに手を握り頭を下げる蔦重を見つめる歌麿。カメラは背後から映しているので表情はわかりません。このとき、どんな表情をしていたのでしょう。
怒りや絶望は通り越し、蔦重とは袂を分つ決意を秘め、口元だけ笑みを湛えているのか。
すべての感情を失ってしまった、冷たい表情をしているのか。
「さよなら、蔦重」と別れを告げる決意の顔をしているのか。
今まで蔦重は、幾多の試練を乗り越えてきました。
天才的なひらめきで、トレンドをいち早くキャッチし売れ筋を見極める才能を持ち、困難にぶつかっても突破してビジネスを成功させる粘り強さもあります。
けれども、自分のアイデアの実現に熱中すると、アーティストの心情には鈍感になり、いろいろな人を怒らせてきましたね。
今までの蔦重は、いつも「いい本を作りたい」「世の中の人を喜ばせるような作品を作りたい」と作品作りにこだわり、源内に言われた「書で世を耕す」ことに励んできたはず。
けれども、蔦重は店が、ていさんが、子供が……と、自分が抱えた個人的な事情を全面に持ち出しました。しかも、本来は絵師に承諾を受けるのが先なのに、歌麿には甘えてもいいという気持ちもあったのか、あまりにもないがしろにしてしまいました。
蔦重と二人でいい作品を世に残したい、まるでせみの抜け殻のようにきれいなものが残せればいいという歌麿の思いは伝わらず、蔦重は自分の店や妻子を守りたいという気持ちのほうが勝っている。絶望しかありません。
「この揃い物描き終わったら、もう蔦重とは終わりにします」
と決意した歌麿。
ドラマでは、長い間の付き合いだった蔦重と歌麿。公式によると10月30日をもって撮影が終了したそうです。最初は若さとやる気でキラキラ輝いていた蔦重も、白髪頭で痩せ、落ち着いた日本橋の書店の主人という貫禄と歳を重ねた風貌に変わっています。これを演じ分けた横浜流星さんも、すごいですね。
今度、二人の間はどう変化していくのでしょうか。森下脚本がどう描くのか最後まで目が離せませんね。(まだまだ来年も続けて欲しい!と思いつつ)
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