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『べらぼう』招かれざる客は”蔦重の子供”…唯一無二の存在ではなくなった歌麿の決別【後編】

『べらぼう』招かれざる客は”蔦重の子供”…唯一無二の存在ではなくなった歌麿の決別【後編】:3ページ目

定信の倹約作戦のせいで遊女の美人大首絵を作ることに

美人大首絵の大ヒットで商人が物の値段を高くし、それにともない他の店の物価も上昇してした状態を家臣に教えられ「まるで『田沼病』が復活したようで」と煽られて、カッとする松平定信(井上裕貴)。煽りに弱い“ふんどし野郎”ですね。

美人大首絵に看板娘の名前は入れてはいけない、入れていいのは遊女だけという令をだしたため、蔦重は版木を作り直ししなければならないはめに。起死回生のために「名前を入れても可」な女郎だけの美人大首絵を作るので、入銀してほしいと吉原の妓楼主たちに頭を下げます。

話し合いの結果、「蔦重が借金を返してくれないし、自分たちも金が苦しいから、入銀はできない。その代わりに、絵を描いて売れたらその売り上げを借金の返済分としてやる」ということになります。

そこで「吉原の女郎絵50枚で借金100両を帳消しに」との約束を交わしてしまいます。これは、絶対に先に歌麿に許可を得るべきでした。

伝えられた歌麿は「それ借金のかたに俺を売ったってこと?」「そんな話聞いてない、ありえねえだろ」と激怒します。当たり前でしょう。

もう一人の「招かれざる客」は蔦重の子供

ガキができたんだよ。身重のおていさんに苦労かけたくない。頼む!お前だけが頼りなんだ」とひたすら頭を下げ続ける蔦重。

これは「蔦重よ、それを言ったら絶対にだめだよ」と思った瞬間でした。長年の二人の間の絆がブッとちぎれた音がしました。

黙り込む歌麿の沈黙の時間が長かったですね。この間、心の中にはどのような思いが去来したのでしょうか。

歌麿にとって衝撃だったのは、蔦重が無理やり大量な仕事を押し付けることより、「自分のことを借金のかたに売った」という現実。これではまるで、金のために男に体を売らせた毒母親と同じ。

その母親と同様に、自分を売った蔦重に対する怒り……といよりも、絶望のほうが強かったでしょう。この「借金返すから絵を描いてくれ」というオファーをする蔦重そのものが、歌麿にとっては塩を撒いて返したいほどの「招かれざる客」でした。

さらに、歌麿にとってもう一人の「招かれざる客」は、蔦重とてい(橋本愛)の間にできた子供。蔦重とは一緒に仕事をしていい作品を残せるだけでいいと思っていたのに。そして、その作業は、妻のていにはできない、絵師である自分だけができることだったのに。

「あんたは私の息子」と呼び、子供時代からずっと求めていた母親の愛をくれた“おっかさん”こと、蔦重の母つよ(高岡早紀)の存在があって、蔦重と“兄弟”でいられると思っていたのに。

蔦重と唯一血が繋がった「子」という存在が登場する。歌麿は、もう「自分が蔦重の一番になることは絶対にない」と絶望したのだと思います。

4ページ目 無理に作った笑顔で「蔦屋とは最後になる仕事」を引き受ける

 

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