『べらぼう』蔦重と歌麿。二人の“息子”を大きな愛情で包んで抱きしめる、無敵の「おっかさん」【後編】:2ページ目
胸に秘めた蔦重への感情を、唯一話せる存在・つよ
歌麿が自分の想いを赤裸々に話をするのは、つよが初めて。
「気づかれたとこで、いいことなんて何もねえ。俺の今の望みは、綺麗な抜け殻だけが残ることさ。面白かったりして、誰かの心を癒す。2人でいい抜け殻を残せるのなら、おれは今、それだけでいいんだ」。
蔦重とてい(橋本愛)が所帯を持ち、自分は蔦重の唯一無二の存在という居場所を無くし寂しさを感じていたものの、きよと出会い“自分だけの居場所”を見つけた歌麿。けれどそのきよも亡くなり、再燃しそうな蔦重への想いに戸惑う気持ちがあったのでしょう。
前回、絵の打ち合わせ中、蔦重が煙管に火をつける横顔をうっとりした顔で見つめていましたが、はたと「絵の女性に小道具を持たせる」ことを思いつきました。
蔦重への想いだけ終わらず、そこからクリエーターらしく絵の構図を思いつくあたり、自分の複雑な感情にけじめをつけたな……と感じる場面でした。きよとの生活が影響したのかもしれません。
蔦重と歌麿の二人にしかできない「作品という証」を残すことで、自分の気持ちを成就させようというところに着地点を見出したのでしょうか。
「私が悪い。あんな朴念仁に産んじまって」と謝るつよに、「ありがてえよ。聞いてもらえるってな、心が軽くなるもんな」と答える歌麿。ほっとしたような柔らかなような表情が印象的でした。
「遠慮してんじゃないよ!おっかさんの前で。」が響いた歌麿
最初は暗い部屋の中、“影”に座っていたつよが、立ち上がって“光”差し込む縁側に出て来て、歌麿にお茶を淹れつつ「私、もっと(ここに)来るよ」といいます。
「いいよ店だって忙しいだろ」と断る歌麿に「遠慮してんじゃないよ!おっかさんの前で。」。いいセリフでしたね。
この「おっかさんの前で」には、歌麿に対する掛け値なしの心配や愛情がぎゅっと凝縮されているようで胸に響きました。母親にしか言えないこのセリフに、一瞬、歌麿がはっとした表情に。
「あんたはあの子の義理の弟。だったらあんたも私の息子さ」は、思わず顔が綻ぶ言葉でした。明るくあっけらかんとしながらも、押し付けがましくない率直なつよの言葉は、ストレートに歌麿の心に届いたのでしょう。
歌麿の鬼畜めいた実の母親を知る視聴者にとって、このつよのひとことはぐっと泣かされるありがたい言葉。
「じゃあ、よろしく頼むよ。おっ母さん」。と素直に笑みを浮かべる歌麿。子供時代、酔っ払うと機嫌がよくなる鬼畜の母親が胸元に抱き寄せた時、ちょっと嬉しそうだったことを思い出します。
きっと、ずっと“母の胸に抱きしめられる”のが夢だったのだと思います。つよの言葉で、長年の夢だったおっかさんの胸に抱きしめてもらえた気持ちになったのではないでしょうか。我慢と苦労続きの歌麿だっただけに、頼りがいのあるつよの存在にはほっとします。
けれども、怖いのが、つよが悩まされている突然の頭痛。幸せの後に急降下で地獄に落とす森下脚本なだけに……。

