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盲目的な愛の果てか?歴史的冒涜か?女帝・孝謙天皇が強行した道鏡の皇位継承問題とは【前編】

盲目的な愛の果てか?歴史的冒涜か?女帝・孝謙天皇が強行した道鏡の皇位継承問題とは【前編】

奈良時代後期の769年(神護景雲3年)、九州・大宰府から朝廷を震撼させる知らせが届いた。

「僧・弓削道鏡(ゆげのどうきょう)を天皇に立てれば、天下は泰平になる」。宇佐八幡宮の神託として伝えられた衝撃の内容であった。

道鏡とは孝謙(重祚して当時は称徳)天皇の寵愛を受け、朝廷の最高位である法王にまで上り詰めた僧侶である。

この神託を大いに喜んだ天皇は、真偽を確かめるべく宇佐八幡宮に使者を遣わした。だが、再度の託宣は「天皇の位は必ず皇統の血を引く者が継ぐべし」と告げ、道鏡の即位の目論見は阻止される。

初代・神武天皇以来、「万世一系」(ばんせいいっけい)――永久に一つの皇統が続くこと――を原則とする天皇家において、なぜ孝謙天皇は、皇族の血を引かぬ一介の僧を天皇に据えようとしたのか。

本稿では、日本史を揺るがすこの疑問について[前編][後編]の2回に分けて考察する。
[前編]では、孝謙天皇の人物像を紹介しよう。

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つまり、独身のまま天皇となった女性皇族は、その生涯において結婚することも子をもうけることもできないという境遇を受け入れざるを得なかったのである。

歴代の女性天皇を挙げると、飛鳥時代の推古天皇[第33代]、皇極(のち斉明)天皇[第35代・37代]、持統天皇[第41代]、奈良時代の元明天皇[第43代]・元正天皇[第44代]・孝謙(のち称徳)天皇[第46代・48代]、さらに時代を下って江戸時代の明正天皇[第109代]・後桜町天皇[第117代]である。

それではここから、第46代および第48代として即位した孝謙(称徳)天皇が強く推し進めようとした、僧・道鏡への皇位継承問題に焦点を当てて考察していこう。

そこには、孝謙天皇が女性であったからこそ抱かざるを得なかった苦悩や葛藤が存在していたことも、見逃すことはできない。

2ページ目 聖武と光明子の間に生まれた史上唯一の女性皇太子

 

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