
『べらぼう』差別に挑む蔦重の覚悟!「本」で結ばれたソウルメイト・ていとの出会いを考察【前編】
「この町に育ててもらった拾い子の、一等でけぇ恩返しになりゃしませんか」……
大河ドラマ「べらぼう」の23話『我こそは江戸一の利者なり』で、吉原の亡八(妓楼主)達に「日本橋に店を出させて欲しい」と頼んだ蔦重(横浜流星)。
調子に乗るな!と怒った養父・駿河屋市右衛門(高橋克実)に、いつものように“階段落ち”させられるも、「吉原者の自分が、日本橋に店を出すことで、江戸中が吉原を見直す、大したもんだと見上げるようになる」と訴えます。
23話から今回の24回『げにつれなきは日本橋』の二話にかけて描かれた、いよいよ始まった蔦重の日本橋進出。テーマとして描かれた「吉原者に対する差別」と、蔦重の根底に流れる「『本』への想い」、まったく同じ想いを抱くソウルメイト、本屋の一人娘てい(橋本愛)との出会いを考察してみました。
「吉原者」に対する差別を背負い、いざ日本橋へ
第23話で描かれた「吉原者」に対する差別。上得意客の葬儀に招かれた妓楼主たちですが、突然「吉原者は座敷に一緒に座って欲しくない」と、庭先への席移を強いられ、雨が降ってきても放置されるという屈辱的な思いをします。
招いておきながらこの非礼と差別に、怒りを覚えた人も多いのではないでしょうか。
江戸時代、吉原者は「四民の外」(士・農・工・商の四民にも含まれない存在という意味)と差別されていました。ずぶ濡れになり「いつものことだ」と肩をすくめる妓楼主たちを見て、自分も雨に打たれその悔しさを体に叩き込んでいるかのように見えた蔦重。おそらくこの時に「日本橋進出」への決意はより固くなったのでしょう。
「日本橋で店を出させてくだせえ」。と妓楼主たちに頼むも「誰のおかげでここまでなれたと思ってんだ!」と怒り狂った養父・駿河屋市右衛門に“階段落ち”をされても、今回はへこたれません。
立ち上がり、着物の裾を尻っぱしょりにし、一歩ずつ階段を上りながら「吉原者が日本橋に店を出し、江戸中が吉原を見直すようにしたい」と力強く亡八の旦那衆に訴えます。
そして、冒頭の「この町に育ててもらった拾い子の一等でけぇ恩返しになりゃしませんか」のセリフを言い放ちます。このシーンは、見せ場だったと思います。蔦重の決意を心より応援したくなった人も多いでしょう。
蔦重は、生まれ育った吉原に対する深い思い、差別への憤り、敬愛していた平賀源内(安田顕)の「書をもって世を耕し、日の本をもっと豊かな国に」を実現したいという思い、耕書堂のためにと自ら身を引いた瀬川(小芝風花)の思い……たくさんの思いを背負っています。
この重さに負けまいと、足元が揺るがないように、一歩一歩階段を踏み締め「日本橋という新しい舞台」へと登っていく。そんな感じがしました。
「勝算は?」と聞かれ「俺には、抱えている日本一の作家や絵師たちがいる。足りないのは日本橋だけ」という蔦重。プロデューサーや編集者にこんな風にいわれたら、クリエーター冥利に尽きますね。