
大河『べらぼう』鳥山検校と五代目瀬川(小芝風花)の悲惨なその後…咲くも散りゆく4本の徒花【前編】:3ページ目
元遊女だったからこそ悲惨な未来を見通せた女将
ところが、海千山千の楼閣の女房、いね(水野美紀)は「瀬川と蔦重が何やら企てた」と察知します。二人の計画を阻止するために、瀬川に一晩に5人もの客を取らせるという無理を強要。昼間から客の相手をさせ、行為中の姿を覗かせあのときの「声」を蔦重を呼び寄せてわざと聞かせます。
吉原育ちの蔦重は聞き慣れた「声」のはず。けれども瀬川に惚れていることを自覚した後なので衝撃を受けます。遊女である限り客の相手をさせられ続ける現実を突きつけられたのです。松葉屋の主人・松葉屋半左衛門(正名僕蔵)に「年季があけるまで瀬川にあれを続けさせるつもりか?」と言われ引き下がるしかありませんでした。
いつのまにか、蔦重も「たとえ幼馴染の瀬川でも、大勢いる遊女の一人だから体を売るのは当たり前」という亡八思想に染まっていたのでしょうか。
遊女が体を売る残酷さが身に沁みた蔦重は、諦めずに吉原から抜けだすため通行切手を使う計画を立てます。
逃げたところで金がなきゃそこもまた地獄
時を同じくして、恋仲になった松葉屋の遊女うつせみ(小野花梨)と浪人の小田新之助(井之脇海)が通行切手を使う手段で足抜けを試み、失敗するという事件が起こります。計画性のない恋の逃避行はあっという間に阻止され、新之助はボコボコに、うつせみは折檻を受けるのでした。
女将のイネは「逃げたところで金がない男は博打に溺れ、女は夜鷹になって稼がなきゃなきゃいけなくなる」といいます。イネも元遊女なので、男と逃亡したところで金が無ければ悲惨な未来しかないことを教えるのでした。
イネに「ここは不幸な場所だが、女郎でも人生を大きく変える瞬間がある。その背中を見せるのが『瀬川』という名前を背負うものの務めじゃないか」と言われた瀬川は、検校の身請けを受ける覚悟を決めます。遊女あがりの亡八ならではの、瀬川に対する思いやりなのかもしれません。
「こんなばからしい話を勧めてくれたこと、きっと一生忘れない」と通行切手を蔦重に返しながら静かに言う瀬川。やっと二人の間に咲こうとした一輪の恋の花も、あっという間に散ってしまったのでした。
以前、蔦重が刊行した花魁を「花」に見立てた『一目千本』のように、二人の間に咲こうとした哀しい徒花がどんな花か例えると、花言葉が「私を忘れないで」のワスレナグサ、「報われぬ恋」のスイセンが思い浮かびます。