「鎌倉殿の13人」八重ロス続出でも落ち込んでる暇なし!続々と歪んでいく勝者たち…第21回「仏の眼差し」振り返り:6ページ目
八重の死を知らず、義時は……
そして八重の死。知人の「ガッキー(※新垣結衣の愛妾)!」と叫ぶ幻聴が聞こえたような……それはさておき。
全国各地で相次ぐ八重ロスに水を差すようで申し訳ないのですが、その画面作りにはいささか疑問が残りました。
川に流され、岩にしがみついていた鶴丸を見て、かつて川で殺された千鶴丸(演:太田恵晴)がフラッシュバックした八重(実際には目撃していませんが、ずっと心の片隅に想起していたのでしょう)。
冷静さを失って川へ駆け込み、鶴丸を抱え戻って来てからいきなり流された点に、どうしても違和感を否めません。
画面を見る限り、鶴丸を三浦義村(演:山本耕史)に預けた八重が最後に立っていた場所の水位は膝下くらい。
そこから力尽きて倒れたとして、成人女性があっけなく流されてしまうというのは、そうそう考えられることではありません。
もちろん水量や水流によって(例えば八重の立っていた一歩後ろがすごく深く、かつ川が激流だった、など)不可能ではありませんが、そんな状態の川で子供を遊ばせるというのは、ちょっと不注意が過ぎます。
だから、川の流れはごく穏やかであったとするのが自然です。それでも水難事故は起きるのですから、八重と義村があんなに離れて駄弁っているのもいかがなものでしょうか。
またいくら緊急事態だからと言って、その場にいたみんながみんな誰一人として八重を顧みないほど、鶴丸に人望があったとも思えません。
八重に石を投げつけたり、金剛(演:森優理斗)と喧嘩したりなど、あまり周囲に溶け込めそうもない様子が劇中でも描写されていました。
もちろん、そんな鶴丸だからこそ彼を救うために命を失ってしまった八重の聖母性を引き立てる効果が期待できます。
しかしこれならCGを使って「成人男性でも流されかねない激流の中を泳いで鶴丸を助けた八重が、義村に鶴丸を引き渡した次の瞬間に濁流へ呑まれていった」などと演出した方が自然だったかと思います。
ともあれ「(頼朝との恋仲を引き裂かれ)入水自殺を遂げた」という八重姫の伝承はこういう形で回収されました。
ちなみに八重姫を供養する真珠院(静岡県伊豆の国市)では「梯子があれば救えたのに」という人々の思いから、今も梯子を供える風習が残っているとか。
鎌倉で悲劇が起きているとは知らず、義時は願成就院の阿弥陀如来像を前に運慶(演:相島一之)と酒を酌み交わしているのでした。
終わりに
ところで、劇中で運慶の掘っていた阿弥陀如来像と、現存している願成就院の阿弥陀如来像の手が違うのが気になりました。
劇中の仏像は両手とも親指と中指を合わせた形を手前に向けている一方、大河紀行のご本尊様は指先が欠損しているため細かくは判りませんが、右手中指がピンと伸びていることから親指と人差し指を合わせた形と考えられます。
これはいずれも説法印ですが、前者は中品中生(ちゅうぼんちゅうしょう)、後者は上品中生(じょうぼんちゅうしょう)という形。
説法印とは極楽往生について説いた仕草で、上品上生(じょうぼんじょうしょう)から下品下生(げぼんげしょう)まで極楽往生の9ランクを示しています(※ただし例外もあり)。
前者は5/9ランクであるのに対して、後者は2/9ランクとかなり高く、あえて形を変えた(ランクを下げた)のは劇中何かの暗示となっているのでしょうか。
かくして第21回放送「仏の眼差し」振り返ってきました。頼朝は元から?として、勝利によって歪んでいく鎌倉。そんな中、正気をつなぎとめていた八重を喪ったことで、義時はますます闇堕ちがはかどってしまいそうです。
また、八重が保護していた曽我兄弟が今後どんな動きを見せるのか、頼朝と後白河法皇の関係はどのように決着するのか……などなど、次週の第22回放送「義時の生きる道」も目が離せませんね!
※参考文献:
- 『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 後編』NHK出版、2022年6月