【平安京の事件簿】惨殺され、野犬に食われた皇女の遺体…犯人が供述した黒幕は?:2ページ目
犯行動機は道長一派への脅し?
「あの悪三位(あくざんみ)か……」
藤原道雅は藤原道長との後継者争いに敗れた藤原伊周(これちか)の子で、家の没落や当子内親王(とうしないしんのう。三条院の皇女)との破局などから荒んでいました。
乱暴狼藉を繰り返し、従三位(じゅさんみ)の位階を授かっていたことから「悪三位」あるいは「荒三位(あらざんみ)」などと呼ばれていたのです。
まぁ、アイツなら命じかねない……日ごろの振る舞いから誰もが納得したものの、その動機は何でしょうか。
仮に道雅が隆範に何かを盗ってくるよう命じたとします。忍び込んだ隆範が、犯行を目撃した女房を口封じのために殺した、とするのは少し不自然です。
見つかりたくないのであれば、一刻も早く現場からの逃走を図るでしょう。女房の遺体をわざわざ路上に引き出すのは、見つかるリスクを高めるばかりで何のメリットもありません。
「となると、単なる物盗りではなく、女房自身が標的だった可能性もあるな」
では、道雅が女房に殺意を抱いたのはなぜか……彼女にフラれでもしたか、あるいは父から家督を奪って一家を没落せしめた道長を脅すため、その娘である彰子の身近な者(殺せるなら誰でもいい)を害したかった可能性も考えられます。
もし脅し目的であるなら、殺害した女房の遺体を路上に引き出して野犬に食わせ、惨たらしさを高めるのはより効果的と言えるでしょう。