水木しげるの前にキタローを書いた男!ゲゲゲの鬼太郎の原型「ハカバキタロー」【4】:5ページ目
辰巳画の傑作紙芝居「猫三味線」が復活していた
紙芝居『ハカバキタロー』を見ることはできません。しかし辰巳の絵の魅力を味わうことはできます。というのも、辰巳が絵を担当した紙芝居『猫三味線』が、形を変えて平成に復活していたのです。新たな演出を加えた舞台上演版で、平成18(2006)年にDVD化されています。
DVDに納められているのは、紙芝居師・梅田佳声さんの口演によるものです。データによれば、上演時間3時間におよぶ計600枚・全56巻通し上演とのことですから、かなり見応えありそうです。
もちろん辰巳恵洋の絵もたっぷり見られます。猫に取り憑かれた少女、すなわち猫娘は不気味さと妖艶さを併せ持っています。でも、どこか猫の可愛らしさがにじみ出ています。
傑作と呼ばれる怪奇紙芝居『猫三味線』は、怨念うず巻く復讐譚です。『ハカバキタロー』もそうだったように、重く暗い怪奇物語は当時の子どもたちの心をつかみました。
また、『猫三味線』も富士会製作ですが、脚本担当は伊藤正美ではなく「入江将介」という紙芝居作家です。入江の代表作には『コケカキイキイ』があります。
実はこちらも水木しげるが同名の漫画を書いています。入江版と水木版は内容が異なるそうですが、なかなか興味深いです。
ところで、この『猫三味線』が、なんと今年再演されます。下記のサイトに詳しい情報が掲載されています。今回は活動写真弁士・坂本頼光さんによる全巻通し上演なんだそうです。
……と、ここまで紹介しておいて恥ずかしい話ですが、筆者はこの紙芝居を未見です。昭和平成を越えて令和に甦った紙芝居を、いつかぜひ見たいと思います。
幻の紙芝居
戦火に消え、幻となった『ハカバキタロー』の紙芝居。
かつて『探偵!ナイトスクープ』に「探してほしい」という依頼があったものの、発見されなかったといいます。
ナイトスクープで見つからないなら、もう無理かもしれません。それでも「実は、とある屋敷の蔵の中にあった!」なんていう奇跡を望んでしまいます。
- 参考文献:
『紙芝居昭和史』加太こうじ(岩波書店) - 『紙芝居がやってきた!』鈴木常勝(河出書房新社)
- 『メディアとしての紙芝居』鈴木常勝(久山社)
- 『乙女のふろく 明治・大正・昭和の少女雑誌』村崎修三(青幻舎)
- 『乙女のロマンス手帖』堀江あき子・編(河出書房新社)
画像出典:写真AC