極限で問われる武士の真価!テロに屈せず人質も見殺しにしない源頼信が示した「兵ノ威」とは(上):3ページ目
頼信『ガキの一人くらい、殺させればよかろう』
さて、国司=頼信の官邸はすぐ近く。親孝のただならぬ様子に驚いた頼信が「これは一体どうしたことだ(此ハ何事の有ゾ)」と尋ねたところ、親孝は
「大事な一人息子を、賊の人質にとられてしまいました!」
【原文】「只独リ持テ候フ子ノ童ヲ、盗人ニ質ニ被取(とられ)テ候フ也」
と、泣き出してしまいました。
あの親孝が泣くほどとは、平素から親子の情愛深さが察せられるところですが、今は状況が状況。
頼信は動じることなく、咲(笑)って親孝をなだめます。
「我が子が愛しい気持ちは解るが、別に泣くほどのことはなかろう。こんな時こそ、相手が鬼神だろうと挑みかかる勇気が大切なのだ。いっそ『ガキの一人くらい、殺させればよかろう』くらいに考えよ。そもそも『我が身が惜しい、妻子が心配だ』などと言っておっては、武士の奉公は務まらぬ」
【原文】「理ニハ有レドモ、此ニテ可泣(なくべ)キ事カハ。鬼ニモ神ニモ取合(とりあはむ)ナドコソ可思(おもふべ)ケレ……(中略)……然許(さばかり)ノ小童(こわっぱ)一人ハ突殺サセヨカシ。然様(さよう)の心有テコソ、兵(つはもの)ハ立ツレ……(後略)……」
これを聞いた親孝は、再び卒倒しかけたことでしょう。
武士の資質と、奉公の覚悟「……とは言うものの……」
「別にいいじゃないか、子供など、殺させてしまえ」
一度戦場に出てしまえば、いかに手立ては打てようと、故郷の妻子を直接守ることはできない。
しかし、妻子の事など気にかけていては、奉公がおろそかになって肝心な自分が殺されるだけならまだしも、味方は戦に敗れ、主君に面目が立たない。
それならいっそ、気がかりとなる子供など殺させてしまえば、いっそ心置きなく戦い、奉公も適うというもの。
現代の価値観からすれば、随分と酷薄で非情にも思えますが、これが武士の倫理であり、戦場で互いの命を預け合う仲間に求められる資質でした。
この辺りが、悪役に人質をとられて「おのれ、卑怯な!」と悔しがり、人命救助を優先するハリウッドのヒーロー達と、武士との違いなのでしょう。
ただ、頼信も別に親の愛情がわからない人ではなく、ちゃんとフォローを入れています。
「まぁ……とは言うものの、一つわしが行ってやろう」
【原文】「……(前略)……然ニテモ我レ行テ見ム」
そう言って太刀を一振り手にとり、悠然と出かけていきました。
後半はこちら。
極限で問われる武士の真価!テロに屈せず人質も見殺しにしない源頼信が示した「兵ノ威」とは(下)
※参考文献:小峰和明 校注『今昔物語集 四』岩波書店、1994年11月21日、第1刷