- No.34「いけしゃあしゃあ」の語源は何?調べた結果をいけしゃあしゃあと紹介します
- No.33最終話【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第33話
- No.32【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第32話
【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第25話:4ページ目
「たでえまア!」
「おかえりなさい、芳さん」
かまちにどっかり座った国芳を、佐吉はいつもの涼しい笑顔で迎えた。
「どうだった、でっけえ魚にありつけそうかえ?」
「いんや、さっぱりだ!」
そう言う国芳は少しも落ち込む様子はなく、飛び出す前と同じ場所に腰を据え、猛然と絵を描き始めた。佐吉がそんな国芳の背後で、生まれつき口角のきゅっとあがったくちびるを開いた。
「ずっと訊きてえと思ってたんだけどさ」、
芳さんって、
「なんで全然めげねえの」。
「それア、傍観者のいうことだ」
国芳は顔を上げもせずに言った。
「ボウカンシャ?」
佐吉はきょとんとしたが、突然「あ!」と素っ頓狂な声を上げた。国芳は思わずびくりと筆を止めた。
「何だよ急にでけえ声出して」
国芳は、怪訝そうに顔だけ振り返った。
「思い出した!」
「なに」
「芳さんに、頼みてえ仕事。・・・・・・」
佐吉は何かを含んだ目で笑った。なんだ、と国芳が懐に手を突っ込んで胸元を掻きつつ訊いた。
「また冗談か洒落をかましたら、いよいよぶん殴るぜ」
「あのね、おいらの背中に、龍の絵を描いておくんなよ。刺青(ほりもの)を入れてえんだ」
「何!」
いきなりなに抜かしやがる、と国芳は驚きのあまり半分怒ったように言った。
「良いじゃねえの、芳さん」
「おめえみてえに肌の白くて綺麗な男が、何でまた刺青なんて思い付くかねエ」
「何でって、格好良いじゃない」。
佐吉が、涼やかに微笑んだ。
この男はいつもそうだ。
怖いという感情を母親の腹の中に置き忘れたらしい。涼やかな目でさも楽しそうに、とんでもない大きな事を突然言い出す。
「蒸し暑くなる前にやっちまいたいんだ。暑くなると、下手すりゃ肌膚が腐るっていうから」
ねえ、駄目?と拝むようにする佐吉に、国芳はふっと笑って頷いた。
「いいぜ。」
「ほんにかえ!?断られるかと思ったア」
「断るもんか。他の絵師にお前の身体汚されるくれえならわっちが描くさ。それに」、
「それに?」
国芳の目に、ふうっと強い光が宿った。
「今なら描ける気がすらア」。・・・・・・
バックナンバー
- No.34「いけしゃあしゃあ」の語源は何?調べた結果をいけしゃあしゃあと紹介します
- No.33最終話【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第33話
- No.32【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第32話
- No.31【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第31話
- No.30【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第30話