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【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第15話
前回の14話はこちら。
【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第14話
前回の13話はこちら。[insert_post id="77437"]■文政七年 夏と、秋(6)後の月の九月十三日。清明な月の下を訥々と歩いて、佐吉は一人、吉原遊廓を訪れた。…
■文政七年 夏と、秋(7)
国芳「東都名所 新吉原」ボストン美術館蔵
吉原遊廓からの帰り道を、佐吉と国芳は肩を並べて訥々と歩いた。
「ありがとうよ、佐吉」
五尺八寸のすらりとした佐吉を国芳は見上げて礼を述べた。
「俺ア別に、何もしちゃいねえよ。てめえで渡しゃ良かったのに俺が渡しちまって本当に良かったのか、芳さん」
「・・・・・・いいんでイ」
今はまだ、会えそうにない。
みつのあの、嬉しそうな声音だけで充分であった。
「芳さんは良くっても、花魁はずっと芳さんを待ってるぜ」・・・・・・
「あ?なんつった?」
「いンや、何でもねえ」
ははは、と佐吉は笑い、
「さア、両国橋まで駆け比べだ」
とぱっと下駄を脱いで帯に差すと、はだしで駆け出した。
画像 歌川国芳「あふみや紋彦」国会図書館蔵
少し後の話だが、みつを主体とした錦絵「雪月花の月 あふみや紋彦」はその後、光と陰翳が放射状に広がる面白さでちょっとした話題となり、隅田川土手の近江屋の宣伝に大いに貢献した。
また、国芳が画中の手ぬぐいにこっそり「おみ津」という文字を入れたことから、「このおみつという美人はどこにいるのか」とあちこち探し回る男が出た。かの歌麿の美人絵は、描かれた女がかならず実在したために、当時は本人探しが随分流行った。まさか自分の絵でそれが起ころうとは、国芳はこの時まだ夢にも思っていない。
「おい!てめえ、なんだって急に駆け出すんでえ」
両国橋の真ん中でようやく追いついた国芳は、膝に手をつき呼吸を弾ませながら佐吉をなじった。
「へへへ、俺ア早かったろ」
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