恋する想いの強さを涙で表現…「男の子なんだから泣くな」って言うけど平安時代の男子は泣きまくりだった:2ページ目
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物語以外でも
そんなに男が泣くのは物語だけだ、と思われるかもしれませんが、ほかにも例はあります。たとえば、「新古今和歌集」にはこのような歌があります。
家に百首歌合し侍りけるに、祈恋といへる 摂政太政大臣
幾夜われ波にしをれて貴舟川袖に玉散るもの思ふらん(恋歌・二・1141)
「新古今和歌集」(校訳・注:峯村文人「新編日本古典文学全集」/小学館)
恋の祈りがいつまでも叶えられず、「袖に玉散る」つまり袖に涙の玉が散るほど物思いをしているという歌です。
この歌自体は「歌合」といって、歌の題を持ち寄って優劣を競う場で披露されたものなので、実際の感情というよりはその場で決められたテーマに沿って詠んでいるといえますが、そうであったとしても恋には涙がつきものでした。
男も女も恋で涙を流し袖を濡らす。こと物語に関しては男が泣く場面が多く、おそらく貴族の世界では「男は泣くべきでない」という価値観はなかったのでしょう。
恋の場面では、いかに自分の思いが強いかを涙で表現し、歌にも詠みこむ。それが平安時代の「男の涙」です。
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