晩夏恒例 徳島県人のスダチのムチャぶり
夏の終わり、徳島県人は県外の知人にスダチを送ります。晩夏は露地もののスダチの収穫期。旬のスダチが30個以上入った、小包のような箱、それが1箱ではなく2箱以上、知人のもとにやって来ます。
トコロガ、実はこの小包を受け取った人達の間で、大量のスダチに悩まされる人は意外と多いのです。
こんなにたくさんのスダチをどうしろというのだ、毎日焼き魚をひたすら食えと言うのか…というこちらの思いとは裏腹に、送り主の徳島県人はこう言い添えてきます。「これで足りるかえ?」
そう、スダチは本家徳島では、味噌や醤油と同じようなポジションにある日常的な調味料。県のシンボルであるスダチを、あらゆる料理にかけまくるのが徳島県人なのです。
刺身や焼き魚は言うに及ばず、揚げ物や豆腐、うどんやそうめんなどの麺類に至るまで、とにかくスダチを絞って絞って絞りまくる。関東の人間には理解できませんが、味噌汁や漬物にまでスダチを絞るらしいのです。
だから徳島ではスダチの箱買いは当たり前。しかも一箱6~700円ほどで買えてしまいます。
一方東京ではちょっとした高級品のスダチ。ス-パーなどでは8個入りパックで500円など、かなり強気な値段で売られています。スダチが身近ではない人間にとっては、なんというかスダチはお刺身についている飾りの葉っぱと同じような存在。映画の中盤にそっと出てくる、友情出演の女優みたいなものと言えばいいでしょうか。
そんな「そっと」した貴重な存在が、産地直送では「ドバーっ」と大量に入っているので、「友情出演」のありがたみがなくなるというか、あのスダチの箱を開けた瞬間はそんな気持ちになるものです。
しかし考えてみれば都会の人間はこういう故郷の実りを分けていただきながら、命をつないでいるわけであります。
スダチの全国生産量の98%は徳島県産。その徳島の中でも特にスダチの産地として有名なのは、山と川の美しい神山町というところです。おじいとおばあが、あの小さなスダチの実をはさみでチョンと切り、丹念に収穫しているのです。
そう考えれば、一粒のスダチも無駄にはできません。この秋も、ふるさとの豊穣を祈りつつ、あらゆるものにスダチを絞りっていただこうと思います。