『豊臣兄弟!』おのれ、村重!妻・だし絶叫…命惜しさに逃げた夫と、命を捨て家臣を救った別所長治の残酷すぎる対比:3ページ目
自分が「生きる欲」は強かった男
「欲のない男ですまんのう」と妻に詫びた男は、他を犠牲にしても自分の命は守りたい「生きる欲」の塊でした。
自分の「命」が大切なのは誰でも同じ。けれど愛する者を守ろうとするときのほうが、人は自分が思った以上の力を発揮できるもの。自分で自分を守ろうとすると臆病になってしまいます。
そんな脆さのある村重は、小一郎(仲野太賀)に説得され降伏を決めますが。
信長への手土産にしようとしたのか、大事な茶器を整理しているときにうっかり割って指を切り、血を見た途端自分の命の危うさに気がつき戦慄してしまいました。
明智光秀(要潤)に対して、信長との信頼関係を薄氷に喩え「一度割れたものは元に戻らん」と言った自分の言葉を思い出したはず。
必死に、割れた茶器の破片をかき集める村重。血染めになった両手を見て、信長に斬られると感じた時の恐怖が鮮やかに蘇ったのでしょう。
無意識に抑え込んでいた恐怖が、一気に吹き出しパニックになった……そんな感じがしました。
直前に「そなたのことは絶対に守る」とだしに約束した気持ちなど雲散霧消した様子。この一連の流れのトータス松本さんの表現が素晴らしかったですね。
怒りをむき出しにするも最期は「心曇らせず」
冒頭で書いたように、だしの『おのれ〜!村重!』の描き方は秀逸だったと思います。SNSでも演じた山谷花純さんの演技を大絶賛する声が。
「激しい怒りに突き動かされて、獣のような咆哮を上げながら荒れ狂って暴れる」という演出は、「本当は、だしはそうだったはず」と頷けるほど、リアルでした。
そんなだしの姿に、雨に打たれ転びながら「すまん。わしは死にとうない。死にとうないんじゃ」という村重の姿がかぶさります。
その後、凛然と落ち着いた様子で処刑場に訪れただしは、チラリと見守る小一郎に向けて微かに微笑みました。私は大丈夫ですよ……とでもいうように。
処刑時の目隠しを「いりません」と断り、ふと空を仰ぎ二羽の鳥が飛び交う姿を見て微笑み「殿、それでも。お慕い申し上げておりました」とつぶやきました。
「それでも」と言い「おりました」と過去形で、何処にいるかもしれぬ夫に告げたのは、「夫への愛のメッセージ」ではなく、自分自身の最期を「夫への呪詛」で終わらせたくなかったのでは。
確かに存在した「仲よく過ごした楽しい時間」まで憎みたくなかったのでしょう。自分自身の尊厳を守るために。
実際にだしが残した辞世の句の一つを思い出しました。
「磨くべき 心の月の 曇らねば 光とともに 西へこそ行け」
(意訳:私の心の中の月は曇らぬように磨いていたので光り輝いています。私にその光に導かれて西方浄土へ行きます)
最期を夫への呪詛の言葉で固めたら、今まで澄んだ心で生きてきた自分自身を貶めてしまう……そんな思いだったのだと思います。

