『べらぼう』“見たい…” ていの腐女子な本音に心揺らいだ歌麿を考察——プロジェクト写楽、始動【後編】:3ページ目
歌麿のもとに出向いたていのセリフに心が揺らぐ
ここを乗り切るには、どうしても歌麿の力が必要と思ったていは単身、歌麿の家に乗り込みます。ちょうど、歌麿は新しく付き合い始めた本屋たちが画に関して何も文句も注文もつけないことに、やりきれなさを抱えていたところでした。
ていは、歌麿の下絵を元に蔦重がこだわって柄や色付け指示を出して仕上げた『歌撰恋之部』のひと揃えを歌麿に渡そうとします。「それは差し上げたものなので」と冷たい歌麿ですが、
「これは蔦谷重三郎の恋文にございます。正しくは恋文の返事にございます」というていの言葉に表情が動きます。「俺の画が、蔦重への恋文だとわかっていたんだな」という表情。
「あの人は、『歌麿はこういうところを気にするから』と毛割(※)をなんどもやり直させた。色味も着物の柄もしつこくやり直しをさせて、摺師と大喧嘩をしていた。版元印と絵師の名前は『自分らは肩を並べて共に作りたいと思っているから』と、歌麿の名を上にしたものを3枚、蔦屋の印が下にしたものを2枚と落ち着いた。」
と伝えます。「かようにうたさんのことを考え抜く本屋は二度と現れない。戻ってやってください。あの人は何よりも、うたさんを望んでいます。」と。
ていの言葉は歌麿の心に届きました。けれど、鼻をすすっているのに(たぶん嬉し涙が浮かびそうになったのかと)「悪いけど、こういうのはこりごりなんだ」と言う歌麿。そこで、「私は出家します」と言うてい。「決して身を引くのではございません。もう男と女というのでもありませんし。」とはっきり力強い口調で伝えます。
亡くなった人の名前を次々並べて「蔦重と関わった亡き人を弔って生きる。そういう形であの人と生きていきたい。」というていに、ちょっと表情をゆるめつつ「うそだね」という歌麿。今までのよそよそしい敬語口調から、タメ口に戻りました。
※毛割:髪の毛の一本一本まで、しかも生え際まで彫りで表現する技法

