『べらぼう』胸が震えた名シーン…決意を固めた“同じ成り上がり”の田沼意次と蔦重の覚悟を考察【前編】:2ページ目
人のふんどしで相撲をとり提灯記事で人気取り「ふんどし野郎」
今回34話では、蔦重と意次の知恵と尽力で、「打ちこわし」騒動が収まったのに、定信が突然老中首座に抜擢、『読売』(当時の瓦版)がさも定信の手柄のように書き立て、江戸市中は「松平さま〜」と一気に盛り上がり、その話題で持ちきりになります。
デマや煽動に乗りやすい町人たちは一気に「松平様、素敵〜!」ムードに盛り上がります。「熊を素手で倒した」「生まれた瞬間に論語をそらんじた」など現実味のない噂話も飛び交い、「俺たちの生活は良くなる!」と大きな期待を膨らませるように。
メディアやSNSで煽られれば、一気に世論が一つの方向に動く。作り話が作り話を呼び無責任に拡散される……このドラマと現代とのシンクロ度には、毎回ながら驚きます。
けれども、意次の奮闘を知る蔦重は、人のふんどしで相撲をとり出世した定信を、うさんくさい「ふんどし野郎」と名付けます。その気持ちが分かりますね。
ところが、そんな蔦重に、「今の老中の言っていることは正しい。極めて真っ当。皆は喜んでいる」と諭す、てい(橋本愛)。さらに、「派手に遊びまわる方を通だの粋だのともてはやす。そもそも今までの世がとち狂っていた!」と口調を荒げます。
前の夫が吉原に入れ込み、借金して父親から引き継いだ大切な店を潰してしまった、その恨みが根強く残っているのでしょう。
蔦重とは喧嘩状態になり、ていは店内でも質素倹約を始めますが、蔦重は忸怩とした思いを抱えたまま。そして、定信のクリエーターへの締め付けや田沼の部下への厳しい処罰など、“見せしめ”が始まりました。
今まで、自分の仲間たちが楽しそうに創作をしている姿が次々と頭に浮かびます。夜、ひとり定信の処罰の対象を書いた『読売』を目の前にして悩む蔦重ですが、心の中には、源内の「自らの思いによってのみ『我が心のママ』に生きる」という言葉が浮かんでいたはずです。
