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『べらぼう』幻の英雄・佐野政言が歪めた真実。ついに意次・誰袖・蔦重の「敵討ち」が始まる【前編】

『べらぼう』幻の英雄・佐野政言が歪めた真実。ついに意次・誰袖・蔦重の「敵討ち」が始まる【前編】

「仇を…仇を討っておくんなんし!」

振り絞るように声を出した、誰袖(福原遥)の願い。

大河「べらぼう」第28話『佐野世直大明神』で、とうとう佐野政言(矢本悠馬)による田沼意知(宮沢氷魚)への刃傷事件が起こってしまいました。

【べらぼう】なぜ佐野政言は田沼意知を斬ったのか?史実資料から実際の犯行の動機を解説

時は天明4年(1784年)3月24日。江戸城中之間において、佐野政言(さの まさこと)が脇指を抜いて若年寄の田沼意知(たぬま おきとも。意次嫡男)に斬りかかりました。意知は初太刀で肩口を斬られ…

その事件は“仕組まれた陰謀”だと知る由もない極貧生活に疲れ果てた庶民は、「自分らの生活が苦しいのはこいつのせいだ!」と扇動されると、冷静な判断を失い作られた「幻の英雄」を拝むように。

突然の意知の死に衝撃を受ける誰袖(福原遥)、田沼意次(渡辺謙)、「裏で糸を引いている者がいる」と気が付く蔦重(横浜流星)……それぞれによる、意知の無念を晴らす「敵討ち」が始まります。

現代の世相にもかぶる波乱の今回を振り返りつつ、仕組まれた罠とそれに立ち向かうそれぞれの心情と決意を考察してみました。

幸せな二人に襲いかかった「覚えのない」凶行

吉原で、今は盛りと咲き誇る桜並木を見上げつつ、「今日は雲助様(意知)と会うのか」と蔦重に聞かれ、「雲助袖の下にて死にたし…だそうで」と、西行の句を用い、今夜は意知と桜の花見をすると微笑みを浮かべて答えた誰袖。

江戸城内での1日の勤めが終わり帰宅の途につきながら、「今日は花見の予定があって」と嬉しそうに言いながら微笑む意知。

今宵一緒に寄り添って桜を見るのを楽しみにしていた二人。
そして、殿中で突然立ち上がり、刃を抜いて意知に斬りかかる佐野。

幸せと凶行の二つの場面が重なり合い終わった前回。今回は冒頭から、凶行に及んでしまった佐野と深手を負わされた意知の場面から始まりました。

田沼屋敷に運ばれた瀕死の意知。志半ばに無念にも逝かなければならなかった今際の際に、せめて誰袖が寄り添っていればと思った人は多いでしょう。

幸せになるはずだった二人の未来を奪った佐野。けれども、父親の介護に疲弊し何事もうまくいかず孤独に悩んでいた彼が、デマを吹き込まれた挙句に「田沼憎し」へと駆り立てられ、凶行に走ってしまった……その経緯を思うと、単純に佐野憎しにもなれません。

「覚えがあろう!」「覚えがあろう!」と、意知に刃を向け詰め寄る佐野ですが、意知に言うというよりも、その言葉で自分自身を鼓舞しないと“佐野家を軽んじ陥れた田沼家に敵討ちをしてやるという決意が鈍ってしまう……と思っているような辛い展開でした。

江戸市中では「今の生活苦はすべて田沼のせい」と悪評が立っていただけに(浅間山の大噴火や冷害は田沼のせいではないにも関わらず)、意知を斬った佐野はまるで救世主のような扱いになります。

2ページ目 煽動者の「煽り」で一気に「あいつのせい!」の空気に

 

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