『べらぼう』幻の英雄・佐野政言が歪めた真実。ついに意次・誰袖・蔦重の「敵討ち」が始まる【前編】:3ページ目
源内の「七ツ星の龍」で気が付く黒幕の存在
そんな時、蔦重は、「煽り」をやった大工姿の男が、今度は浪人姿で「佐野世直し大明神墓所」という幟を佐野の墓がある寺の前に立て去っていく姿を目撃します。
案の定、「作られた空気に乗っかった」町の人々は深く考えることもなく、佐野を英雄視し、「世直し大明神」と称賛しました。
実際、佐野が埋葬された台東区西浅草にある徳本寺には大勢の人が訪れて、まるで観光地のような賑わいだったとか。山東京伝(北尾政演/古川雄大)の弟の京山は、“門前に花や線香を売る所三か所出現し、地上の線香の煙り人を襲う”と書いたそうです。
もともと、田沼びいきではある蔦重ですが「斬られたほうが悪者になり、斬ったほうが英雄になる」とおかしさに気が付きます。
ここで鮮明に思い出されたのが、平賀源内(安田顕)が最期に書いた「七ツ星の龍」。
江戸に流れる不吉な噂を利用して悪事を働く悪党がいる。けれど、それに気がついたのが“七ツ星の龍”。その悪党は、すべての悪事を龍のせいにして、犯人に仕立て上げる。
というお話です。
七ツ星の龍とは田沼意次のこと。
この一連の事件は「裏で糸を引いている者がおるとは考えられませんか?」と、蔦重は田沼意次に伝えました。そして、不審なことだらけの平賀源内の投獄を見逃し、うやむやにしてきたツケが今の事態を招いているのでは?とも。
そんな蔦重に「あやつ(意知)が討たれたのは、俺のせいだ。」と、脇差を手にお前の手で俺を討てと迫ります。
「俺は筆より重いもんは持ちつけねえんで」と涙を浮かべる蔦重。これは“単純に意次を「刀で斬る」ことを拒んだのではない”でしょう。
侍にとっての戦いの武器が「刀」であるとしたら、町人で本屋である蔦重の武器は「筆」。
その「筆」で、「俺は、自分の武器である『筆』で、意知様の敵討ちをする」という、決意を意次に伝えたのだと思います。
「だから、意次様も源内先生の時のようにうやむやにせず、必ずこの『陰謀の主』にきっちり仕返しをお願いします」という意味も含めていたのではないでしょうか。
一度は蔦重を追い返す意次ですが、後日手紙を出します。そこには
「思案の結果、私(意次)の敵討ちは、山城守(意知)が生きて成就すべくことをなすべく、その方法こそが、私の敵討ちとしたい」
としたためてありました。

