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『べらぼう』幻の英雄・佐野政言が歪めた真実。ついに意次・誰袖・蔦重の「敵討ち」が始まる【前編】

『べらぼう』幻の英雄・佐野政言が歪めた真実。ついに意次・誰袖・蔦重の「敵討ち」が始まる【前編】:2ページ目

煽動者の「煽り」で一気に「あいつのせい!」の空気に

今回、印象的だったのは、意知の葬列の場面。

最初、道の両側にいる町の人々は、意知の棺を担いだ葬列に対し、頭を垂れ両手を合わせその死を悼んでいました。というか、田沼政治への不平不満はあるものの、斬られて亡くなった人に対し、人としての「礼節」は尽くしていました。

けれども突然、二人の物乞いの男が、意次の乗るカゴに絡み始めたところから空気が変わります。物乞い二人が厳粛なムードを壊したタイミングで、大工姿の男が葬列に向かって石を投げ「天罰だ!思い知れ!そいつが物乞いになったのはお前のせいだろ」と大声で周囲を煽りました。

そう、大工姿の男はあの「丈右衛門だった男」(矢野聖人)です。平賀源内(安田顕)を投獄に追いやった男であり、佐野政言に「意知があなた(政言)の射落とした鴨を隠した」などデマを吹き込んだ、あの男です。

その煽り言葉でスイッチが入ったように、手を合わせていた人たちが、急に「そうだ!そうだ!外道」と葬列に向かって石を投げ始めました。

冷静に考えれば、この煽りをした人物は誰?何が目的?と疑問を持ちそうなものなのに、我を忘れ一斉に石を投げ始める群集心理の怖さ。物乞い二人も「仕込み」だったのではないでしょうか。

米不足、生活苦、江戸市中にどんどん増える流民(難民)、巷で流行る「田沼おろし」の狂歌、日々重荷を抱え込んだ人々の心の中に、“憂さ晴らしをしたい気持ち”は作られていました。

そこに突然、「あいつらのせいで生活が苦しいんだ!とヘイトを向ける矛先」を示されると、理性や良心が壊れ、根拠もないのに「こいつが悪だ!」とばかりそこに傾れ込んでいく。そして、「外道」「鬼畜」と石を投げ、その興奮はどんどん伝播していく。その行為では何も解決にもならないのに。

「いつの世も同じだな」と思わせられる場面で、相変わらずまるで現代の世相に合わせているかのような森下脚本の凄さを感じました。

葬列を見送っていた誰袖は、思わず飛び出して意知の棺を庇い「やめて!お願い…お願いします…」と土下座をします。そんな誰袖の額にも人々が投げた石が当たります。

「どっちが外道なんだよ!」とやり返す誰袖。

なぜ意知が、突然斬られて葬儀で石まで投げられ「外道」呼ばわりされなくてはならないのか。「仇を…仇を討っておくんなんし!」という誰袖の言葉が刺さる場面でした。

3ページ目 源内の「七ツ星の龍」で気が付く黒幕の存在

 

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