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大河「べらぼう」蔦重と誰袖それぞれの“夢” 〜灰降る日本橋で生まれた奇跡の名シーンを考察【前編】

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蔦重に息づいている「遊びじゃないから遊びにする」精神

今回、浅間山の大噴火により灰に覆われてしまった日本橋。蔦重はすぐに駆けつけて屋根に登り、瓦の間から灰が侵入しないよう着物(吉原の遊女たちからかき集めたのでしょうか)を敷き詰める作業を開始。さらに灰を川に捨てるという作業を、お金をかけてゲームにして街中のみんなを元気づけて盛り上げました。

「くだんねえ、遊びじゃねえんだよ」と怒られるも、「遊びじゃねえから遊びにすんじゃねえですか!」と力強く言い返す蔦重。この言葉は「べらぼう」のドラマ第一回から蔦重のテーマでしたね。

大好きな姉さん遊女・朝顔(愛希れいか)が亡くなったとき、幼馴染の瀬川(小芝風花)と、朝顔のポリシーである「どうせなら思い切り楽しい理由を探してみる」を大切にしていこう!という誓い合っていましたね。それが、しっかりと蔦重の心の中に息づいていると感じる場面でした。

鶴屋の誠意の証「富士山形に蔦の葉」の暖簾

日本橋通油町での灰の除去ゲームで、スピードアップのために川に飛び込んでしまった蔦重。「溺れている!」と皆で引き上げた場面を見て、思わず鶴屋は笑います。

今まで鶴屋の「微笑み」は、相手よりも余裕ある自分を演出する、いわば武器のようなものだったと思います。

けれども、びしょ濡れになった蔦重を見て笑ったときの笑顔は、本当の笑顔。敬服の思いや好意が伝わるようでした。

本屋・丸屋の女将てい(橋下愛)も、そんな蔦重のくったくなく人と接する性格を認め、「一緒に本屋をやる」ことを決め祝言をあげます。

そして、駿河屋で蔦重と てい の祝言が執り行われている中、鶴屋が突然来訪。挨拶後に「通油町よりお祝いの品をお贈りいたします」と桐の箱を差し出しました。

蔦重が包み紙を開けると、その中には蔦屋の商標「富士山形に蔦の葉」が染め抜かれた真新しい暖簾が。これは感動した場面でした。

「暖簾を守る」「暖簾にかかわる」などという言葉があるように、商家にとって暖簾は看板であると同時に、店の信頼にかかわる大切なもの。それをわざわざ新しくあつらえて贈ってくれるという粋な行為に、鶴屋の本気が伝わってきました。

今回灰の始末を「迅速に楽しく始末することができた」と言う鶴屋。

「蔦屋さんの持つ、全てを遊びに変えようという吉原の気風のおかげにございます」というセリフが、あれだけ「吉原者」と蔑んでいた鶴屋の口から出るという心震えるシーンでした。

「江戸一の利者、いや江戸一のお祭り男はきっとこの町を一層、盛り上げてくれよう。そのようなところに町の総意は落ち着き、日本橋通油町は蔦屋さんを快くお迎え申し上げる所存にございます」と、頭を下げる鶴屋喜右衛門。

「お祭り男」のくだりでは、喜右衛門の目元には、楽しそうな微笑みが浮かんでいましたが、「日本橋通油町は蔦屋さんを」と決意表明をする直前、その微笑みはす〜っと消え変わりに真摯で誠実な目つきに変化しました。

好意の微笑みから“襟を正したような”真剣な眼差しに変化させることで、過去へのお詫びと覚悟を伝える。風間俊介さんという役者さんの演技力のすごさを感じるシーンでした。

決意表明後、丁寧に頭を下げる喜右衛門。

いままでの敵対ぶりを振り返ると、猛烈な吹雪で前も見えない雪山にぱっと暖かな陽がさしていき、積雪が溶け出しせせらぎとなり、大地を潤し植物の小さな命が芽吹いていく……そんな情景が目の前に浮かんできました。

3ページ目 灰降って自分の“夢” を叶えた蔦重

 

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