
大河『べらぼう』殻をぶち破った恋川春町、史実では幕府をも皮肉りついに出頭命令…そして悲しき最期【後編】
【前編】では、すっかり自信を失い孤独感を深め、筆を折った恋川春町(岡山天音)が、歌麿(染谷将太)と、朋誠堂喜三二(尾美としのり)の言葉で励まされて元気を取り戻すところまでをご紹介しました。
大河『べらぼう』“こじらせ隠キャ”な恋川春町が…闇堕ちからの、殻をぶち破り天才・酒上不埒が爆誕!【前編】
酒の席での闇落ちぶりの見事さは、岡田天音さんの演技力も相まり、“恋川春町といえばこういう人”というイメージが確立。ファンが激増したそうです。
そして、“闇堕ち”から覚醒し自信を取り戻した春町は、さすがの皮肉屋としての才能を発揮します。
酒の席での傍若無人ぶりが幸い!「皮肉屋の春町」爆誕
恋川春町のこじらせた心を救ったのは、春町の大ファンの歌麿と、親友の喜三二による、 “自分は春町の作品のここが好き!”トークでした。
クリエーターなら、自分のファンに作品を褒めてもらえる(しかも同じクリエーターに)のは、嬉しいでしょう。さらに、大田南畝(桐谷健太)も「酔って爆発した春町の皮肉が効いた狂歌が忘れられない」と評価します。
気持ちを取り直してきた春町に、「ひとつ、『皮肉屋の春町』でうちで書きませんか?」と依頼する蔦重。彼も名プロデューサーぶりを取り戻したようでした。
極端なネガティブさから創造される才能
「皮肉屋の春町」でひらめいた彼は、新しい文字を誕生させました。左は「恋」「川」「春」「町」という偏で、右は「失」を合わせた漢字です。
「恋を失う」で未練・「川を失う」で枯れる、「春を失う」ではずす、「町を失う」で不人気……ものすごくネガティブですが、面白い。創作漢字で自分自身を皮肉ってしまうのはさすがです。
さらに、「門構えの中に絵本」と書いて蔦屋と読ませる。「女」編に「男」と書いて「みたて」、「男」編に、「女」を反対にして「ふる」(遊女が男の客に「ふん!」とばかりに背中を向ける様子が浮かびます)、「男」編に「女」が寄り添って「きぬぎぬ」……無尽蔵にアイデアが湧く春町です。
この創作「遊び文字」「創作漢字」という発想は、現代でも息づいています。実際にない漢字でも組み合わせることでひとつの意味を持つ。広告展などでも見かけることができます。
さらに、やる気になった春町は、いろいろな人にアイデアを求めてインタビューをしていきます。真面目な春町らしさを感じる場面でした。
そうして出来上がったのが、『廓𦽳費字盡(さとのばかむらむだじづくし)』という漢字本。これは、『小野篁歌字尽(おののたかむらうたじづくし)』のパロディーで、“小野”→“廓(さとの)”で吉原を表現、“篁”→“𦽳(ばかむら)”竹冠に愚を合わせたものです。
狂歌のように、何人かで集まって、創作文字を発表しながら酒を呑む会も粋なものですが、創作文字をあれやこれやと意見を交わしながら作っていく会も面白そう。
けれど、基本的に狂歌同様、文字や言葉の知識がないと名作を作るのは難しそうです。