大河『べらぼう』蔦屋重三郎・瀬川・鳥山検校、それぞれの「夢噺」と「苦悩」を回想しつつ考察【前編】:4ページ目
身請けされ吉原を去っても瀬川の夢は続く
一方、元花魁・瀬川の夢は「蔦重の存在」そのものでしょう。
幼い頃から仲良しで、遊女になってからは妓楼に貸本屋の蔦重が持ってくる貸本を楽しみにしていた読書家の瀬川。ただ本を借りるだけではなく、本を通して「面白かった」「面白くない」などと蔦重とやりとりするのも楽しみにしていたことでしょう。
莫大な財産を持つ鳥山検校(市原隼人)に、1400両(1億4000万円程度)もの破格の金額で瀬川を身請けされ、瀬川改め瀬以となり「華やかな花魁」から「物腰の柔らかい若奥様」の雰囲気になりましたが、どこか検校といるときも寂しそうな表情。
蔦重とぽんぽんと威勢のいい会話を丁々発止と交わし「おきゃんな江戸娘」といった明るい瀬川の面影はまったくありません。検校には「妻」としてというよりも、どうしても喋り方や接し方が「花魁」として接してしまうくせが抜けないように感じてしまいます。
以前、蔦重が浄瑠璃の元締めである検校宅に、大人気の富本午之助の「豊前太夫」(寛一郎)襲名の件を願いに訪れた際、瀬川は蔦重の願いを叶えてあげたいと検校に口添えします。
蔦重の仕事を助けるためなら常に全力になる瀬川。検校は「そなたの望むことは全て叶えると決めた」と瀬川の夢(であり蔦重の夢)を叶えてあげました。
「瀬以は、ほんに幸せ者でございます」というお礼の言葉は、検校にとっては虚しく寂しいものに響いたのではないでしょか。
「見えていない目でそんな瀬以を射貫くように見つめる」鳥山検校に対し、「怖い」「静かな嫉妬」「見透かされている」という声は多かったようです。
確かにそういう印象もあるのですが、鳥山検校の夢は、妻となった瀬以の丁寧なお礼の言葉よりも「蔦重と会話が弾んでいるときのようなキャッキャッとはしゃぐ喜びの声を聞く」ことなのではないか……そんな風に思うやりとりでした。
第13回「お江戸揺るがす座頭金」では、心の中には常に蔦重がいて、自分に対してはいつまでも「客扱い」をする瀬以に対し、鳥山検校は、怒りや嫉妬などの感情を激しく爆発させました。
江戸で自分の作る本で人々を幸せにしたいという夢を持つ蔦重、そんな蔦重を一緒に添い遂げられなくても生涯想い応援することを夢にした瀬川、そんな瀬川の「実(まこと)の心」を手に入れたいのが夢の鳥山検校……
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