大河『べらぼう』蔦屋重三郎・瀬川・鳥山検校、それぞれの「夢噺」と「苦悩」を回想しつつ考察【前編】:2ページ目
蔦重の「夢噺」を感じるエピソード
吉原をもっと繁盛させ遊女の処遇を改善したいという夢を抱き、ガイドブック『吉原見』のリニューアルに乗り出した蔦重。この時から、蔦重の夢は現実に向けて始まっていました。
そして、苦労を重ねながらもヒット作品を出し、ついに北尾重政(橋本淳)と勝川春章(前野朋哉)という絵師による豪華な彩色絵本で、吉原の人気遊女の日常の姿を描いた『青楼美人合姿鏡』が完成。
第10話では、その『青楼美人合姿鏡』の本を、鳥山検校に身請けされ吉原を出ていく瀬川に贈ります。
「吉原をもっといい場所に」共通の夢でつながる二人
「吉原を楽しいことばかりにしようと思っている。いい身請けがゴロゴロあるような…」と、自分の夢を語り、さらに「こりゃ、2人で見てた夢じゃねえの?」と静かに続けます。
「おれはこの夢から覚めるつもりは毛筋ほどもねえよ。俺と花魁を繋ぐもんはこれしかねえから。俺はその夢を見続けるよ」としみじみ語る蔦重に「そりゃまあ、べらぼうだねえ」と涙を流す瀬川。
お互い想いあっていることを確認し、駆け落ちを試みるも未遂で終わってしまった二人。けれども「お前とみた夢は見続ける。お前と俺はその夢で繋がっているという、ドラマの副題『蔦重栄華乃夢噺』を回収したような、見事なシーンだったと思います。
「夢噺」とは蔦重が「ビジネスで成功し夢を掴んでいく」だけではなく、たとえ離れていても「夢」で繋がって行く、そんな意味もあったのかと、SNSでも感嘆の声が。
二人の間には「本」という確固たる絆があります。離れた場所で暮らし、違う人生を歩んでいても、蔦重が作った「本」をふと手に取ればそこには二人の居場所がある……そんな深い想いが込められているようでした。

