不気味さに酔いしれるキャンドルナイト ろうそく能
毎年夏至の日に、節電のために電気を消して、ろうそくの明かりでひとときを過ごす「キャンドルナイト」が行われています。華やかにライトアップされている東京タワーや浅草寺も一時的に暗くなり、周囲でろうそくの明かりを灯すイベントが開かれていますね。今年は東京スカイツリーも参加して、節電を呼びかけるそうです。
私達にとってはろうそくの明かりって神秘的で特別感がありますが、もちろん電気のない時代は毎日がキャンドルナイト。そうした時代の趣を味わおうと、最近能楽でも「ろうそく能」が人気を集めています。
能は日本の伝統芸能の中でも特に「敷居が高い」というイメージがありますが、野外で篝火を炊いて行われる「薪能」は、開放的で、初心者でも気軽に鑑賞できると人気があります。会場は神社の境内などの神聖な場所で行われることが多いので、すでにその「完成された」舞台装置のお陰で、能の世界に入り込みやすいのかもしれません。
篝火が灯す舞台は原始的な香りもして、なぜだかわかりませんがチンプンカンプンの能が「上がる能」になります。しかし雨が降ったら大変。中止、もしくはカッパを着て鑑賞。テンション一気に下がります。
ということもあって、天候に左右されない「ろうそく能」が人気になっているようです。現代の室内の能舞台では、普段は電気の照明を使用していますが、これを能がつくられた当時のろうそくの明かりで上演するのです。しかしハッキリ言って、これは不気味です。
ろうそく能では、キャンドルナイトのように、一つ一つのろうそくに明かりを灯していく「火入れ式」があります。暗い室内に1つず
つ明かりがともされていくのですが、黒魔術かなにかの儀式みたいで、オドロオドロしさがあります。しかし能というのは本来、死者の魂を弔う鎮魂の儀式。特に夢幻能と呼ばれる亡霊が登場する舞台のストーリーは、どの演目もだいたい同じような流れで、ホラー映画のような物語になっています。
例えば旅人がある名所旧跡で、一人の女かもしくは婆さんかあるいは近所の住人に出会います。そして「この名所の由来はね…」と旅人にガイドをしてくれる。すると、その人が実はその話に出てくる非業の死を遂げた亡霊本人だった…、というようなすんごく怖い話になり、後半は亡霊が当時を再現して踊り狂う「舞」が演じられます。
これをユラユラと揺れるろうそくの明かりで見るなんて、もう何とも言えない怖さがありますよね。能面の表情や衣装の金糸銀糸も独特の輝きを放つので、まさに異空間。電気の照明で見るとあんなに退屈で眠たくなった能が、スリリングで緊迫したシーンになり、上がりに上がります。
「ろうそく能」や「薪能」は、能イベントとして夏に開かれることが多いので、機会があったらぜひ味わって見て下さいね。
ろうそくの明かりを見つめながら地球の未来について考える「キャンドルナイト」と、過去の亡霊に酔いしれる「ろうそく能」、だいぶ趣旨は違いますけれども、ろうそくの炎はなんとも不思議な日常とは違う空間へ、私たちを誘ってくれます。