高名な遊女・お千代の末路…江戸時代、海辺で営業していた「船饅頭」の遊女たち:2ページ目
馴染みの客を船頭に?
……ここに船饅頭といふ浮草あり、少しの古木場の上に横根さし……(中略)……花の数は三十二に極まる、入相の頃より中洲箱崎の辺に多く漂ふ、また所々泊り船のほとりをちらちら流れありく……
※『色里名所鑑』
花の数とは営業していた船饅頭の数でしょう。最盛期には32名の船饅頭が波に揺られながら客を待ち、客が入ると沖へ漕ぎ出し、辺りを一周するまでの時間で逢瀬を楽しんだようです。
船饅頭が乗る船はお千代船などと呼ばれ、時にはこんな川柳が詠まれました。
お千代舟 沖までこぐは 馴染なり
江戸の海へ漕ぎ出すスタッフは船饅頭の馴染み客。恐らくは営業終了後の花代が報酬だったものと思われます。
そうでもなけりゃ、贔屓の遊女が他の男と事に及ぶ現場なんて、立ち会っていられません。
既定のルートを急いで漕ぎ回り、少しでも店の回転率を上げようと汗を流したことでしょう。
営業終了後、遊女に「本当に好きなのはアンタだけ……」なんて言われればもう有頂天。明晩ものこのこやって来ては、安い報酬で船饅頭の船頭を勤めたものと思われます。
終わりに
今回は江戸の海辺で営業していた船饅頭について紹介してきました。
彼女たちは、夜鷹と並び称せられる最下級の存在として扱われたようです。
……舟饅頭に餡もなく、夜鷹に羽根はなけれども……
※『風流志道軒伝』
また川柳には、このようにも詠まれる始末。
食ひあきた 饅頭指で ぐじつてる
饅頭へ 小僧だまつて 指をさし
安いからいくらでも食える(買える)けど、早くも食い飽きてしまい、乱暴に指でいじくり回す光景が目に浮かびます。
もはや情緒もへったくれもありませんが、何としてでも日銭を稼がねば彼女たちは生きていけませんでした。
果たしてNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」にも、こうした船饅頭のような遊女たちが登場するのでしょうか。
※参考文献:

