「鎌倉殿の13人」一幡の死と頼家の追放。そして……第32回放送「災いの種」振り返り:4ページ目
比奈と二人の息子たち
「あの人には、比企の血が流れています」
「まさか、首をはねろとでも言うの?」
そんな実衣と政子のやりとり。比企の血を引く生き残りと言えば、義時の正室・比奈(演:堀田真由。姫の前)に他なりません。
実家を滅ぼす手助けをしてしまった負い目から義時に離縁を申し出た比奈ですが、先週チャンバラをしていた2人の息子(後に北条朝時・北条重時)は連れて行きませんでした。
なお、誓いを破ると「全身の穴という穴から血を噴き流して死に、地獄へ堕ちる」という起請文は、熊野三山(熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社)で発行している牛王宝印(ごおうほういん)の誓紙(せいし。誓いを立てるための用紙)に書いたから。
※以前に頼朝(演:大泉洋)が「義高(演:市川染五郎)を殺さない」という誓いを立てさせられた時に書いたものと同じ用紙です。
義時から離縁を言い出せないなら、自分から……ということで、最後は義時を「行ってらっしゃい」と送り出して別れとなりました。
かつて「お帰りなさいませ」と結ばれた八重(演:新垣結衣)さんに対して「行ってらっしゃいませ」と別れた比奈。でも間もなく現れる第3の女・のえ(演:菊地凛子。伊賀の方)は、どんな言葉を義時に伝えるのでしょうか。
さて、大河紀行では姫の前(比奈)と、義時ともうけた2人の息子について紹介。二人が結婚したのは、時をさかのぼること11年前の建久3年(1192年)9月25日。
幕府官女〔号姫前〕今夜始渡于江間殿御亭。是比企藤内朝宗息女。當時權威無雙之女房也。殊相叶御意。又容顔太美麗云々。而江間殿。此一兩年。以耽色之志。頻雖被消息。敢無容用之處。將軍家被聞食之。不可致離別之旨。取起請文。可行向之由。被仰件女房之間。乞取其状之後。定嫁娶之儀云々。
※『吾妻鏡』建久3年(1192年)9月25日条
【意訳】頼朝に仕えていた比奈が、この日義時に嫁いだ。彼女は比企朝宗(ひき ともむね)の娘で当時一番の美女として頼朝の寵愛を受け、高飛車だった。彼女に一目ぼれした義時はこの一、二年ほど何度もラブレターを送り続けたが、完全に脈無し。それでも諦め切れない義時が頼朝に泣きつき、「絶対に離縁しない」と起請文を書いてどうにか結婚にこぎつけたのだった(当然、正室としての待遇である)。
……この「義時ストーカー事件」は八重さんへのアプローチという形に変換され、比奈に対しては消極的な様子が描かれていましたが、実際はこんなところだったと言います。
果たして生まれた二人息子の兄・北条朝時は女性スキャンダルを起こすなど比較的はっちゃけた性格、一方の北条重時はそんな兄を見ているためか比較的慎み深い性格に。
※北条朝時・重時兄弟のエピソードはこちら:
女性スキャンダルで勘当!?北条義時と比奈の子供「北条朝時」の生涯をたどる【鎌倉殿の13人】
庭でチャンバラしていたあの子たちは?義時と比奈の子・北条重時の生涯をたどる【鎌倉殿の13人】
好対照な兄弟が今後どんな活躍をしてくれるのか、期待ですね(比企の血が流れているから、実衣から疎まれるシーンなども描写されるのでしょうか)。
終わりに
「北条を許してはなりませぬぞ。あなたの父を追いやりあなたの兄を殺した北条を。あの者たちを決して許してはなりませぬぞ。北条を許してはなりませぬ」
庭先で一人遊んでいた善哉(演:長尾翼。後に公暁)に、突如として現れた比企尼(演:草笛光子)。比企一族の滅亡によってすっかり落ちぶれ、見る影もありません。
それでも声の調子は往時と変わらず上品に落ち着いており、ボロボロな姿とのギャップが視聴者を震撼せしめたことでしょう。
善哉の頬を両手で包んだ仕草は、かつて亡き頼朝と再会した時を髣髴とさせますね。
北条許すまじ。呪いをかけて幻のように立ち去った比企尼。まさに新たな「災いの種」がまかれた瞬間でした。
さて、次週放送の第33回は「修善寺」。これは幽閉された頼家の暗殺と、善児の死を予感させます。修善寺を「しゅ+ぜんじ」に分け、これが「終+善児」なのではないかと予想。
果たしてどうなってしまうのか、来週も目が離せませんね。
※参考文献:
- 『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 後編』NHK出版、2022年6月
- 『NHK2022年大河ドラマ 鎌倉殿の13人 続・完全読本』産経新聞出版、2022年5月