世が世であれば…男に騙され、売り飛ばされた没落華族・松平義子の悲劇:2ページ目
売り飛ばされた義子の末路
「さぁさぁ、元は華族令嬢が今や芸妓に落ちぶれたよ!旦那がた、どうかこの哀れな女にお恵みを……(笑)」
既成事実さえ作ってしまえばもうこちらのもの、とばかりに態度を豹変させた八郎は、義子を「落ちぶれ華族令嬢」と宣伝し、700円で京都の置屋に売り飛ばしてしまいます。
「アンタ……ウチの娘に何ということを!」
「うるせぇ婆ぁ、騙される方がバカなんだよ!」
何一つ悪いことをしていないのに、父親の放蕩で身を持ち崩し、御家再興に目が眩んだ母親によって詐欺に陥れられ……義子の悲歎は察するに余りあるものでした。
温室育ちの御令嬢が、落ちぶれて芸妓となった……そんな触れ込みで義子は好奇の目で見られ、中には同情する者もあったでしょうが、僻みっぽい手合いからイジメられることも少なくなかったことでしょう。
「今までさんざん贅沢三昧していた報いだ、ざまぁ見ろ!」
過酷な仕事に心身を病み、倒れても休む暇などない……通院しながら仕事を続けていた昭和11年(1936年)9月9日、義子は電車に乗っていました。
「危ない!」
電車がカーブを大きく曲がると、義子は遠心力で振り落とされ、全身をアスファルトに強打。昏睡状態に陥って病院に担ぎ込まれます。
当時の電車は車両にむき出しの部分があり、車内が満員だったのかそこに乗っていた義子は、心身の過労で気が抜けたところを振り落とされてしまったのでしょう。
「「「義子!」」」
豊子が看病していたところへ、すっかり離散していた兄たちや行方不明になっていた八重子も駆けつけ、しばらくぶりに兄弟全員が揃います(たまは既に病死)。
「あぁお嬢様、おいたわしや……」
かつて松平家三代に仕えていた老臣の堤和芳(つつみ かずよし。当時85歳)が杖をつきつき見舞いに駆けつけたのがせめてもの慰めになったかどうだか、昏睡状態から意識が戻らないまま、義子は息を引き取ったのでした。