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怒り狂った老婆が包丁で!福島県に伝わる世にも恐ろしい昔話「三本枝のかみそり狐」【下】

怒り狂った老婆が包丁で!福島県に伝わる世にも恐ろしい昔話「三本枝のかみそり狐」【下】

彦兵衛の出家

何はともあれ助かった……胸をなで下ろした彦兵衛は、老婆が立ち去ったのを確かめた上で、御本尊の裏から這い出します。

「お陰様で、助かりました」

すっかり安心した彦兵衛はお礼を言いましたが、住職は厳しい顔で訊ねます。

「さて……あの者の申すことは、真か?」

「……相違ありません」

いくら豪胆を気取る彦兵衛でも、仏様の前で嘘をついたらどうなるかくらいは知っています。

「左様か……ひとたび御仏にすがった以上、いかなる罪も赦されようが、俗世との因縁は絶たねばならぬ。この場で出家剃髪して、殺(あや)めてしもうた赤子の菩提を弔うのじゃ」

「……はい」

さっそく住職が剃刀(かみそり)を持って来て、彦兵衛に合掌瞑目(手を合わせて目をつぶる)するよう命じます。

髪をひと剃り、またひと剃り。剃刀がなまくらなのか、時々頭皮に引っかかって痛いですが、これも俗世の罪業を剃り落とすため、と彦兵衛は我慢しました。

(あぁ、早合点から本当に悪いことをしてしまった……また時が来れば、あの二人に心から詫びなければ……)

髪が剃り落とされる度に、彦兵衛は心から過ちを悔い、反省の念を深め……。

彦兵衛、まんまと化かされた!

「……おい、彦兵衛!起きろ!」

明くる朝、気づけば彦兵衛は村はずれの道端に寝転がっていました。

「あれ?」

「お前ぇ、いったいその頭はどうした事だ?」

頭に手をやると、すっかり丸坊主にされていて、あちこちに血糊がベッタリとついています。

「うわぁっ!」

彦兵衛が昨夜の一件を話すと、村人は笑いました。

「そりゃお前ぇ、狐に化かされただな。女も老婆も住職も、みーんなグルだったのさ」

「何てこった!」

あれほど「俺は化かされない」と豪語していたことが恥ずかしくなった彦兵衛は、それからと言うもの、何事も用心深くなり、大口を叩かなくなったそうです。

この一件から、彦兵衛を化かした狐たちは「三本枝のかみそり狐」と呼ばれるようになったのでした。

【完】

※参考文献:
川内彩友美 編『日本昔ばなし 里の語りべ聞き書き 第5集』三丘社、1989年3月

 

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