いつぞや「美しすぎる~」なんて言葉が流行ったようですが、古来「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し」とはよく言ったもので、どんなプラス要素であっても、過ぎれば却って不幸になってしまうのはよくあること。
そこで今回は、美しすぎた悲恋の少女・初音姫(はつねひめ)のエピソードを紹介したいと思います。
禁じられた恋愛と、強いられる政略結婚
今は昔の戦国時代、志摩国の波切城(現:三重県志摩市)に初音姫という美しい少女が住んでおりました。その美しさと言えば、国じゅうの地頭たちが先を争って結婚を申し込んで来るほどで、父親の九鬼弥五郎澄隆(くき やごろうすみたか)は、次から次へ断るのに苦労したそうです。
しかし、澄隆は初音姫を在地の有力地頭・甲賀藤九郎(こうが とうくろう)に嫁がせる、いわゆる政略結婚を決めていました。
「初音よ。そなたは藤九郎殿に嫁ぐのだ。よいな!」
結婚に当事者の意思など許されない時代のこと、一族の棟梁にそう命じられれば黙ってうなずくより他にないのが常識ですが、初音は違いました。
「父上、どうかお願いでございます。わたくしは玄蕃允さまの許へ参りとう存じます……!」
玄蕃允とは志摩国における地頭衆の一人・越賀玄蕃允隆俊(こしが げんばのじょうたかとし)のことで、九鬼一族とはライバル関係に当たります。
聞けば玄蕃允とは相思相愛であるとの事で、つまり知らぬ間に「夜這い」をかけられてしまっていたのでした。
「何という屈辱……!玄蕃允となど、断じて許さぬ!」
怒り狂った澄隆は、もう二度と「間違い」の起こらぬよう、藤九郎との縁談を強引に進めてしまいます。