美しすぎた故の不幸…戦国時代、禁じられた悲恋に命を散らした少女・初音姫:2ページ目
決死の脱出も虚しく……
しかし、初音姫も玄蕃允への想いを断ち切れません。
「どうしよう、このままでは藤九郎と結婚させられてしまう……」
思い詰めた初音姫は、ある晩に皆が寝静まった頃合いを見計らって波切城から脱出、玄蕃允の許へ走りますが、そんな思惑などお見通しとばかり、藤九郎が待ち構えていました。
「九鬼一族の娘でありながら、敵に通じようとは不届き千万……死ね!」
必死で逃げる初音姫に抜刀し、その首を斬り飛ばした……と思った藤九郎ですが、刀はなぜか地蔵の首に当たり、真っ二つに折れてしまいました。
「どういう事だ……?」
藤九郎が戸惑った隙に時間を稼いだ初音姫ですが、女性の足で逃げ切ることはできず、結局は藤九郎に捕まってしまいます。
「……この、九鬼一族の恥さらしめが!」
澄隆はカンカンに怒り狂って初音姫を散々に折檻(せっかん)した挙げ句、土牢に幽閉してしまいました。
それでも玄蕃允を諦め切れない初音姫はどうにか脱出(牢番を買収でもしたのでしょうか)、最後の力を振り絞って一艘の小舟を漕ぎ出します。
……が、弱り切った少女の細腕では熊野灘の荒波を乗り越えられず、小舟はあっけなく浜辺に押し戻されてしまいます。もはや陸路を突破する気力も残っていません。
「……人々はわたくしを美しいと褒めそやしたが、その美しさが我が身の不幸を招いたのであれば、二度とこの里に美しい娘が生まれませんように」
そう念じた初音姫はそばの井戸へ身を投じ、短い生涯に幕を下ろしたのでした。