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着物の文様から絵師・鈴木春信の浮世絵「風俗四季哥仙」を読み解く!春信の魅力 その3【後編】

着物の文様から絵師・鈴木春信の浮世絵「風俗四季哥仙」を読み解く!春信の魅力 その3【後編】:3ページ目

“源氏香”文様

さて、男性を見てみると羽織の袖のあたりに、これみよがしに描かれている紋があります。この紋は“源氏香”という図案に大変よく似ていますが、52種類の“源氏香”の中に、この図案は存在しません。

“源氏香”とは香道の組香(香りの違いを聞き分ける)の一つであり、その香りの違いを図にした“香の図”から派生したものです。

江戸時代になるとハマグリを使ってもう片方の貝とピッタリ合わせる、本来は“貝覆い”と呼ばれる遊びも“貝合せ”と呼ばれており、貝の内側に源氏の絵が描かれているものも多かったので、“源氏香”の紋を描いたのかもしれません。

しかし何故存在しない自作の紋をこんな目立つところに描いているのか、不思議です。

“源氏香”の香の図は一つ一つの図柄に『源氏物語』の52帖の巻名がそれぞれ名付けられています。一番似ている紋は“玉鬘”の図柄です。

源氏物語の中で源氏は長年探していた亡き恋人“夕顔”の娘と出会えたことを、“玉がつながるアクセサリーのように繋がっていたのだ”と思い、娘の名を“玉鬘”と名付けたのです。

源氏物語の“玉鬘”の内容は、夕顔の乳母が事情があって九州に移り住まなければならなくなった時に、“夕顔の娘の姫君”である“瑠璃君”を一人置いていく訳にもいかず連れていきました。瑠璃君は気品のある大変美しい娘に成長し、多くの殿方に愛されました。

その中でも肥後(熊本県)の役人であり有力者である男に、瑠璃君は熱烈に求婚されます。しかしその男は30歳くらいの大柄で太っている豪傑のような人なので、瑠璃君にとっては恐ろしくて結婚どころの話ではなく、乳母の長男の尽力で京の都に戻ることになり、やがて源氏と再開するという話なのです。

前述の能『高砂』の阿蘇神社の神主も肥後(熊本県)の人です。何か縁を感じてしまうのは筆者の深読みでしょうか。

また“玉鬘”というのは“毛髪”を美しく呼ぶ呼称でもあり、転じて“どうにもならないこと”や“運命”を表すとも言われています。

鈴木春信の意図はどこにあるのでしょうか。奥が深いです。

4ページ目 斎宮良子内親王

 

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