お天道様は見てござる…伊勢商人の心意気を表わした「伊勢乞食(いせこじき)」とは?
誰が呼んだか、江戸時代における「日本三大商人」の産地は大阪と近江(現:滋賀県)、そして伊勢(現:三重県の大部分)の三ヶ国だそうで、あまりにたくましい商魂が時として人々の嫉妬や顰蹙を買うこともあったようです。
そうした感情は往々にして蔑称(ネガティブなあだ名)を生み出すものですが、今回は伊勢商人の蔑称として知られる「伊勢乞食(いせこじき)」について紹介したいと思います。
「伊勢屋、稲荷に犬の屎(くそ)」
いきなり汚くて申し訳ありませんが、これは江戸の街にありふれていたものを七五調の韻を踏んで表わした言葉で、生国・伊勢を屋号に称する伊勢商人の多さ≒バイタリティが偲ばれます。
さて、そんな商魂たくましい伊勢商人たちを妬む誰かが、いつから呼んだか「伊勢乞食」……と言ってもそう呼ばれたのは江戸にいた伊勢商人ではなく、お伊勢参りの街道沿いに店を出し、参拝客を相手に荒稼ぎした手合いでした。
現代でも世界中から億単位の参拝者が訪れるというお伊勢様(神宮)は、江戸時代から「一生一度は伊勢参り」と言われたほどに大人気の旅行スポット。
当時も全国各地から参拝者が押し寄せるため、商売にテクニックも何も要らず、店さえ出せば誰かがお金を落としてくれるような様子を見た他国の商人が
「あんな(楽に儲かる)のは商売じゃない。乞食が参拝客から銭を恵んでもらっているようなものだ」
とやっかんで呼んだのが「伊勢乞食」とも言われます。
※ちなみに、お伊勢参りの街道沿いには本物の伊勢乞食もたくさんおり、信心深い参拝者の慈悲にすがって糊口をしのいでいたようです。
「雪解する道に湧出る伊勢乞食」
※『江戸高点附句集』【意】春になると、雪解けの街道に参拝者目当ての乞食が湧き出してくる。