愛しい人々との別離…防人たちの思いが詠まれた「万葉集」防人歌を紹介:3ページ目
妻があまりに恋しくて……
我が妻は いたく恋いらし 飲む水に
影(かご)さえ見えて よに忘られず
【原文】
和我都麻波 伊多久古非良之 乃牟美豆尓
加其佐倍美曳弖 余尓和須良受
(わがつまは いたくこひらし のむみずに
かごさへみえて よにわすられず)
【意訳】
離れ離れとなった妻があまりに恋しく、水を飲む時に映る自分の顔さえ妻に見えてしまう。どうして忘れることなどできようか。
これは麁玉郡(あらたまのこおり。現:静岡県浜松市)の若倭部身麻呂(わかやまとべのみまろ)という者が詠んだ歌です。
もう妻が大好きすぎて、夢どころか水を飲むたびに映る自分の顔さえ妻に見えてしまう。早く未練を振り切らねば辛いだけなのに、どうしても忘れることなど出来ない……そんな痛切なやるせなさが、ひしひしと伝わって来ます。